「5年前に大腸がんで主人を亡くしてから、“別の病院に連れて行けば”“最後に食べたがっていたうなぎを食べさせていれば”などと後悔が頭を巡り、家に閉じこもるように。先日、法事で親戚が集まった折、妹から“もう5年も経つんだから、いい加減前を向きなさいよ”と言われました。
ショックでした。周りから見たら5年は長いのかもしれませんが、私には主人の死はつい最近のように感じられます。前を向かなきゃとも思いますが、どうしてもそういう気になれないのです」
こう語るのは、72才の主婦Kさんだ。愛する人の死ほど胸が張り裂けることはない。特に日本人の死因1位のがんは、宣告時から死を意識させ、闘病中はもちろん、死後数年経っても出口のない悲しみが続く。
妻のがんが発覚したHさん(73才)は、手遅れとわかってから引きこもり、ついには首を吊った。4年前に8才の息子を脳腫瘍で亡くしたIさん(38才)は、明るくふるまっていても、「小6のお子さんがいますよね」などと通信教育の勧誘を受けるたび、胸が締めつけられるという。
「大切な人を失うと誰しも、思慕の念・疎外感・うつという喪失感に絡む気持ちと、前向きにがんばろうという現実的な気持ちが出てきます」と、自治医科大学看護学部教授の宮林幸江さんは指摘する。
「死別の悲しみは、配偶者を亡くした人で平均4年半、高齢の場合や子供を亡くした人で5年程度続きます。短期間で無理に忘れようとする必要はありません」(宮林さん)
問題は、「悲しみが4~5年経っても癒えないのは当然」という認識が広まっておらず、周りからの間違った励ましで傷を深めること。遺された人は悩みを話す場もなく、絶望に追いやられてきたのだ。
喪失感に苦しむ人々の声を受けて、約10年前から登場し始めたのが、「遺族外来」と「家族ケア外来」だ。ともにがんで闘病中の患者の家族や遺族のケアをしてくれる。
「死別は人生最大のストレスであり、遺族は心血管疾患による死亡率やうつ病罹患率が高い。時に投薬が必要になるほどです」とは、埼玉医科大学国際医療センター「遺族外来」医師の大西秀樹さん。
国立がん研究センター中央病院「家族ケア外来」の医師・加藤雅志さんも「後悔している人の誤解を解き、感情を口にしてもらうことが必要なんです」と続ける。悲しくてつらい場合、前出の専門外来や、がん拠点病院の精神腫瘍医、がん相談センター、精神科や心療内科でも相談できる。
悲しみは、放っておいても癒えない。我慢せずに話せる相手を見つけることが大切なのだ。
※女性セブン2017年10月5日号