金銭的困窮、仲間が欲しい…など、さまざまな理由から、昨今、生活の拠点としてシェアハウスを選ぶ人が激増している。だが、文化や育った環境が異なる人が一緒に住むため入居者同士でトラブルも起きやすく、騒音被害や窃盗のほか、性暴力のリスクもある。
それでも、親元で暮らすよりもシェアハウスを選ぶ女性たちはいる。『他人と暮らす若者たち』の著者で日本大学文理学部准教授の久保田裕之さんが言う。
「彼女たちにとって、家族と暮らすことは利点もある半面、責任や干渉など気づまりな側面もあり、よく知らない他人と住む方が気が楽な場合もあるのではないでしょうか。身近に人の気配があって寂しくない。気が合わなければ挨拶を交わすだけの他人のままでいればいい。気が合う人がいれば友達にもなれるシェアハウスの薄い人間関係は、心地いいものなのだと思います」
こうした背景には、「家族神話の崩壊」があると久保田さんは言う。
「日本は高度経済成長期から家族だけを頼りにし、それ以外のつながりを過小評価してきました。ところが経済成長がストップして終身雇用がなくなり、社会が流動化すると人々の価値観が多様化します。
その頃から『夫婦や家族を頼るのが常にいいとは限らない』という風潮が少しずつ生まれてきました。代わりに頼るようになったのが、『近くにいる他人』です。シェアハウスが流行する根底には、そうした日本社会の小さな変化があるのです」
これまで100%頼りにした“家族の絆”が薄れた時、浮上したのが“他人の絆”だった。それが仮30%しか頼れないものであったとしても、人はそれを求める。
「例えば急に具合が悪くなった時、隣の他人が救急車を呼ぶだけで助かる可能性は激増します。100%頼りにできる存在はなくなったけど、たとえ30%や10%の信頼でも、それをつなぎ合わせて生きていくのが今の生き方なんです」(久保田さん)
シェアハウスを夫との冷え切った関係を清算し、離婚する第一歩として利用した鈴木昭子さん(仮名・51才)もこう語る。
「印象的だったのは、若い人たちが人間関係の距離感をすごく測っていたことです。いつも一緒に飲む間柄になると、一度誘われなかっただけで『あれ、嫌われたのかな』と心配するようになりますよね。仕事が忙しいから誘われなかっただけなのに、近しくなると逆に余計な心配をしてしまう。最初はもっとコミュニケーションを取るべきと思っていたけど、『長く一緒に暮らすには、あまりベタベタしない方がいいのかな』と勉強になりました」
彼女の言葉通り、あまり距離を近くしないことが現在のシェアハウスの流儀かもしれない。こちらが100%を期待してコミュニケーションを迫ると「グイグイくる人めずらしい」と引かれてしまうけど、生活をシェアする以上、「30%くらいの信頼」はあるはずだから。
※女性セブン2017年10月5日号