懐かしのCMソングを口ずさんだり、一緒に見学に来たパートナーと思い出にふけってみたり──。皆、思い思いに会場中に飾られた時代を彩る名コピーを眺めている。
「『カエル コール』とか『私はコレで会社をやめました』は懐かしいですね。まだ子供たちが小学生で、ずっとテレビがついていた時代。当時の家族団らんの風景が蘇ります」(笠井淑子さん・73才)
「知らなかったコピーも、どんな情景が広がるのか想像してみると楽しい」(上野麻有さん・32才)
9月11日から17日まで大阪で開催された「宣伝会議コピーライター養成講座60周年記念イベント『コピージアム2017』」(東京は9月3日に終了。現在は10月1日まで金沢で開催。以降、札幌、名古屋、福岡にも巡回予定)には、5000人を超える来場者が足を運んだ。このイベントを主催している株式会社宣伝会議の谷口優・月刊『宣伝会議』編集長が語る。
「その時代の社会やライフスタイルを切り取るコピーは、青春時代に聴いた音楽や映画と一緒だと思うのです。年代別に展示することで、自分の青春時代のコピーを懐かしんでいただけているのではないかと思います。またコピーライターという職業は華やかなように見えますが、実は地味な黒子のような存在。黒子の仕事ぶりを一般のかたにも知ってもらいたいという思いもあります」
60年の歴史を誇る「コピーライター養成講座」からは糸井重里、秋山晶といった人気コピーライターだけではなく、阿久悠、林真理子、佐野元春など、言葉を武器にさまざまなジャンルで活躍する著名人を数多く輩出している。
◆“無関心”から“気になる“へ導く
『ココロも満タンに』──このコスモ石油の名コピーを生んだのも同講座の卒業生である、仲畑貴志さん(70才)だ。50年近く広告制作に携わる彼は「おしりだって、洗ってほしい。」「反省だけなら、サルでもできる。」など、今も記憶に残る名コピーを生み出してきた。「コピーライターの神様」とも称される。
「いやいやコピーライターって、そんな大袈裟なものじゃないって(笑い)。決してクリエーティブなことをしているのではなく、受け手が何を求めているかに寄り添っているだけ。ターゲットの心にどうやったら伝わるか、商品を買ってくれるか。
『ココロも満タンに』は、働いている人たちもハッピーでいられたらという意味。幸せそうな従業員がいるだけで、そのガソリンスタンドを好きになる。そうなれば、他のガソリンスタンドが1円2円安くても、コスモ石油を選ぶじゃないですか」
ヒットメーカーの仲畑さんでも、“理想のコピー”を生み出すのは難しいという。
「たとえば、化粧品の新商品を売り出したいとき、ターゲットが20代から30代の働く女性だとしたら、彼女たちの言語化できないもやもやした思いをつかまえて、彼女たちが“それなの!”って反応できるコピーが発信できたら一等賞。でも、それはなかなか難しい」