53才のN記者(女性)。父の急死で突然、80代の認知症の母を支える立場になった。今まで大きな持病もなく、健康診断で常に優秀な数値を誇っていた母の血糖値が上がった。中高年なら、ツラい食事制限も強いられる糖尿病の兆候。せっかく食べる楽しみが復活したばかりなのに…。N記者が高齢者と糖尿病についてリポートする。
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母は認知症こそあるが、体はいたって健康。ぽっちゃり体形、顔もふくよかで、いつも年齢より若く見られる。そんな母も父の急死から約1年半に及ぶ独居で激やせし、認知症の症状も噴出。私は激昂と消沈を繰り返すばかり。母娘のつらい時代だった。
そして3年前、新天地のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に転居。食堂で作ってもらう食事を大勢で楽しく囲むようになると、みるみる元のふくよかな母に戻り、物盗られ妄想などの認知症症状も不思議なほど消え失せた。
母の快調は毎月の内科の健診結果にもあらわれた。
「いいですよ~、血圧も安定しています。こちらでの生活を楽しんでいらっしゃるのね」
母の主治医は中年の品のいい女医さんで、お顔も声も女神様のようにやさしい。
「いいですよ~」とにっこり微笑みながら言われると、なんだか満点を取ってほめられた子供のような気分になる。
「はい。楽しく暮らしております。先生にお会いするのが楽しみだからまた来ますね」
と、母も満面の笑みだ。ところが転居から2年目、昨年の健診で思いがけない数値が出た。
「血糖値が高いですね…。糖尿病になっちゃいました」
いつもの女神のやさしい声ながら、母にプレッシャーを与えないようにという配慮が交ざった妙な言い回しだった。