中国でも政治的節目が近付いている。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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いや、トップへの胡麻すりもここまでやれば逆に気持ちが良い、というべきか──。19大(中国共産党第19期全国代表大会)を前に総書記(国家主席、党中央軍事委員会主席)の功績が強調されるのは慣例だとしても、ちょっとやり過ぎではないかという印象はぬぐえない。
大会直前になって伝統メディアへの締め付けを強化したのはまだいいとしても、いわば内輪の会話ともいえる「グループチャット」内の言論にまで監視の目を光らせ、逮捕者まで出している。そんな窮屈さの一方で、伝統メディアが「右にならえ」とばかりに総書記の功績を競って報じているのだからなおさらだ。批判が基本である日本のメディアとは明らかに文化が違っていることを意識させられるのだ。
さて、前置きが長くなったが、その総書記の徹底した「模範生」としての姿を報道した『人民日報』の話題だ。タイトルは、〈習近平の晩飯代とそのメニューが明らかに! 総書記がいかに八項規定を実践しているかを見よ〉である。
要するにメディアが習近平の訪れたレストランで、そのときの領収書と伝票を入手したという体裁の記事だが、これが「宣伝」であることは言を俟たない。もちろん、といっても中国のメディアは基本的にみな党や他の政府系機関の機関紙なのだから、そもそもの役割をはたしているに過ぎない。
それにしても、と思うのはその記事で報じられている総書記の「清貧」ぶりなのだ。
同紙が公開したのは2012年12月に総書記が河北省阜平県を訪れた際のものなど複数あるが、阜平では随行員と数名で囲んだテーブルで注文しているのはスープを含めて五皿。また3月に訪れた河南省での領収書の金額はわずか160元(約2560円)だったという。
この行いが、現在、全党員に課している八項規定(ぜい沢禁止などを定めた規定)を自ら実践しているとなるのだ。
もちろん総書記の過激なトラ退治(反腐敗キャンペーンの中で党の大幹部を何人もとらえたことを指す)をみれば、総書記が有言実行であることは理解できるのだが、これではちょっと息苦しくないのか。ちょっと心配になってしまうのである。