作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が平成という時代を振り返る「平成史対談」。今回は2000年に起きた「旧石器ねつ造事件」について語り合った。
片山:忘れてしまっている人もいるかも知れませんが、ロシアのプーチン大統領初来日から4か月後の2000年11月、教科書を書き替えなければならないほどのインパクトの事件が起こっています。旧石器ねつ造事件です。
私も雑誌に「藤村新一の嘘がバレて日本史が四十九万年縮んだよ」というコラムを書きました。日本の考古学は戦後、皇国史観から解き放たれて自由になった。旧石器時代が日本に存在したことを証明した岩宿遺跡の発見をきっかけに、考古学的に日本の歴史を遡る流れができた。
しかしなぜか日本ばかりで古い石器が発見される。やがてありえない年代の石器まで出土しはじめた。
佐藤:日本人は、ねつ造やインチキをしない民族だと信じられていたのに、深層にある怪しさやいかがわしさが露呈した事件でもあった。その意味では、朝日新聞の従軍慰安婦報道や、STAP細胞騒動に連なる問題を内包しています。
片山:日本人は「世界に冠たる日本」が好きなのですね。戦後の学問の自由を象徴するはずの考古学が、いつの間にか、神武天皇の存在を信じて日本の歴史の古さを誇張した皇国史観の代替物になってしまった。
冷静に考えれば俄には信じがたい年代まで日本古代史が遡っても、専門家やジャーナリズムは藤村を「神の手」ともてはやしました。