得意ではないと思い込んでいる分野の本については、なかなか手が伸びづらい。しかし、読まないと後悔する本が、この世には必ずある。生物学者の福岡伸一氏が選ぶ、文化系のための生命科学の本6冊を紹介する。
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まずオススメしたいのが岩波の「岩波科学ライブラリー」。このシリーズ、科学読み物としてとても優れている。テーマの選び方と筆者の掘り出し方がすばらしいのだ。おそらく編集者がたいへんな目利きなのだろう。いずれもハンディで薄手。とっつきやすくスラスラ読める。
たとえば、『ナメクジの言い分』(足立則夫著、岩波科学ライブラリー)。なよなよしたナメクジが、防御のために殻を持つように進化したのがカタツムリのように思えるが、そうではない。カタツムリが殻を脱ぎ捨てて出来たのがナメクジ。なぜこんな順序がわかるかといえば、ナメクジの中でまだ殻の痕跡を有しているものが存在するから。殻を作るにはたくさんカルシウムを摂取しなければならず、殻合成のためのエネルギーも多くいる。つまり持ち家は維持にコストがかかる。
そこで、持ち家幻想から一歩踏み出したのがナメクジ。もちろん外敵に襲われたときのリスクは高まるが、身軽になった分、いいことも増えた。どこにでも自由に潜り込めるし、新しいエサも見つかった。そんなナメクジたちの率直な意見に耳を傾けてみよう。
次に、先ごろ刊行された『昆虫の交尾は、味わい深い…。』(上村佳孝著、岩波科学ライブラリー)。機微な話題なのだが、生物学の真髄は細部に宿る。この季節、繋がって飛んでいるトンボを見かけることも多いが、よく見るとハートの形になっている! どちらがメスでどちらがオスかわかりますか? しかもなんであんな格好でシテいるのか。そこには深い理由があるのであーる。