父の急死によって、突然母を支える立場になった女性セブンのN記者(53才)。認知症となった80代母との生活をつづる。
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家でひとり本を読んでいるのが好きだった母。自転車にも乗れず、もともとアクティブではない母が、認知症になってから積極的に出かけるようになった。外に出ると「頭の中のモヤモヤがスッキリ晴れる」のだという。
◆旅行から帰ったら認知症が悪化!?
「ねぇ、私のお金はどこ?」
深夜2時。振り返ると幽霊のように立っている母。心臓が飛び出すほどの驚きと恐怖が今も忘れられない。
これは2012年12月、父が心筋梗塞で急死した直後のことだ。年内は葬儀などでてんてこ舞いだったが、じつはその年末年始、両親と私の家族で旅行しようと東北の温泉宿を予約していた。その旅行を、特に父は喜んであれこれ計画し、「出発日の待ち合わせはまた相談しよう」と話したのが最後になってしまった。
喪に服すべきかとも思ったが、泣く気力さえ失い、無表情の母と自宅で迎える正月を思うとゾッとして、思い切って旅行を決行したのだった。
清々しい雪景色、家族連れで賑わう宿、行列に並んで食べた喜多方ラーメン…。葬儀の緊張を引きずっていた家族みんなが和なごみ、母も父のことを忘れているかのように楽しんでいた。
旅に出てよかったと思いつつ帰宅した夜、母が豹変した。しばらく私の家に滞在するため、旅先から一緒に帰宅した母は、家族と旅の思い出を楽しく語り合ってから床につき、私は、真夜中のリビングでひと息ついていた。
「パパは死んじゃった? 明日からひとりで生きていかなきゃならないわね。私のお金とか通帳、どこにやった?」
「今、夜中の2時だよ! なんでそんなこと言うの!?」
私は恐怖と悲しさのあまり逆上し、頭をかきむしりながら言い捨てた。母は旅先とは明らかに顔つきが違っていたけれど、そのときはまだ認知症の診断前。母の異常なもの言いを、思い切り、真に受けたのだ。