先進国において「男女同権」は常識となりつつあるが、中国ではまだまだそうはいかない。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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中国社会における子供の男尊女卑は、「一人っ子政策」が実質的に崩れ去った現在もまだ健在だとされる。
先日も、出産前に性別を知りたいと願う親たちの要望を受けて、大量の妊婦の血液検査用のサンプルを隠し持って香港へと渡ろうとしていた業者が、水際で摘発されるという事件が発覚し国内でも大きなニュースとして取り上げられた。子供の誘拐に絡み売買される嬰児の値段も男女では5倍ほど値段に差がつくともいわれている。
男児の出産をとりわけ喜ぶ傾向が強いのは農村部で、北京や上海などではもはやそうした傾向は薄らいでいる。だが、中国全体を見回せば、まだまだ“男尊女卑”は根強い。
さて、そんな中国にあっても人々をあっと驚かせるニュースを発信したのは8月22日付『現代快報』である。記事のタイトルは、〈男の子を産みたいと“神の薬”を服用 結果、二つの性を備えた子が産まれる〉だ。
今年、江蘇省連雲港市の第一人民医院の医師が、4歳になる両性具有──男性器と女性器の両方を持った──の子供に手術を施したというニュースだったが、驚いたのはその記事のなかで子供が両性具有となった原因を、〈母親が妊娠中に“転胎神薬”と呼ばれる民間医療の薬を飲んでいた〉と解説されていたことだ。
民間医療などと表現されると聞こえは良いが、実態は言い伝えや迷信のたぐいだ。
はたして本当に薬の影響か否かは確かめるすべもないが、驚かされるのは、そうした怪しい薬がいとも簡単に手に入ってしまう環境がまだ中国にはあるという事実だ。また、妊娠中という極めてデリケートな時期に、人体にどんな影響があるかも不明な薬を、医師の判断もなく飲んでしまうという感覚だ。
そこには男の子を産みたい、もしくは産まなければならない妊婦のニーズにこたえるように発達した地下のマーケットがいまも厳然と存在していることをうかがわせる。IT革命が爆発的に中国人のライフスタイルを変えている現在にあってもなお、中国人のこうした因習が消えることはないのか。