ドラッグ汚染は多くの先進国が抱える社会問題の一つだが、中国も例外ではない。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
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今年3月、中国国家禁毒委員会弁公室などが発表した「2016年 中国毒品形勢報告」によると、中国における麻薬吸飲者数は2016年末の時点で250万5000人に達し、相変わらず深刻な状況であることを示した。
対前年比で6.8%の増加と経済成長に合わせたような割合で増えているのだが、深刻なのは犯罪の若年化である。吸飲者の最も多いのは18歳から35歳までで計146万4000人と全体の58.4%を占めているが、18歳未満の数も2万2000人と全体の0.9%を占めたのである。
そんな中国でいま、新たに若者を毒している流行があるという。笑気ガスだ──。
笑気ガスと聞いてすぐには想像できないかもしれないが、実は日常的に接することの多い物質だ。というのも医療行為の現場ではよくつかわれ、なかでも歯科医で歯の治療をするケースで接することが多い。
だが、本来この笑気ガスは酸素との濃度の調整をきちんとしなければ、たちまち酸素不足に陥り、最悪死に至るケースもあるというものなのだ。しかし、米国などでは手軽に手に入る。中国では米国帰りの留学生から火が着いたとされている。
「一度死んでから生き返ったような感覚」、「すごく興奮した」といった書き込みがネット上にも散見されるが、なかには動画をアップするケースもあり、若者たちが集まり笑気ガスを風船の中に入れて吸引しながら大騒ぎをするというやり方だ。
書き込みの中には「頭痛もせず中毒性もない」などと説明するものもあるが、そんな都合の良いものであるはずはない。中毒性と無縁なはずはなく、一部で深刻な被害が出て、静かな社会問題になっているという。
8月18日には蘇州で3人の未成年者がインターネットで笑気ガスを買い、その後ホテルに15時間こもって吸い続けたことで全員が重態となって病院に担ぎ込まれるという事件が地元メディア(揚子江晩報)で伝えられ、人々に大きな衝撃を与えた。手軽に手に入るモノだけに、間違った知識で気軽に試す若者が増えることが警戒されている。