「若い頃のように脂っこいはどうも……」──年齢を重ねれば、食の好みが変わるのは当たり前。ただ、加齢ととともに塩分の強い食事を取りたがる“味覚障害”を発症する人が増えている。日本口腔・咽頭科学会の調査では、1990年に約13万8600人だった味覚障害の推計患者数は2003年には約24万5000人と倍増している。潜在的な患者はもっと多いとする説もある。味覚障害に詳しい東北大学大学院歯学研究科の笹野高嗣教授(口腔診断学)はこう解説する。
「問題なのは、患っている高齢者に自覚が乏しいことです。そのため、患者数も正確に統計を取るのは極めて難しい。私が以前、ある老人ホームの入居者を調査したところ、3分の1以上に味覚障害の兆候が見られましたが、そのうち8割以上の人がそのことを自覚していませんでした。視覚や聴覚の症状に比べて本人が把握しにくいのだと考えられます。
食べているものの味が薄いと感じて醤油やソースをドバドバとかけていると、多少“かけすぎたかな?”と思うことがあっても味覚の『順応』という作用から、徐々に“これが普通なんだ”と感じるようになるのです。そうするとますます自分の食べているものの味が濃すぎることがわからなくなっていく」
◆高血圧や動脈硬化のリスク
たかが味覚の変化と侮ってはいけない。味覚障害を放置していると、健康を害するリスクが高まる。
「濃い味付けの食事ばかり摂っていると、塩分の過剰摂取となって高血圧や動脈硬化のリスクが生じます。ただ、これは味覚障害による弊害としては『入り口』に過ぎません」(同前)
高血圧や動脈硬化の先には、脳出血や心筋梗塞など、命に関わる疾病リスクが待っている。