年を重ねるにつれて食べ物の好みが変わることは珍しくないが、気をつけなくてはいけないのが味覚障害。米国の研究結果(1997年、米国医師会雑誌『JAMA』掲載)によれば、高齢者の塩味を感知する能力は、健康な若い人に比べて約12分の1だという。これはつまり、12倍の塩をかけなくてはその味を感知できないということである。
どうすれば予防できるのか。味覚障害に詳しい東北大学大学院歯学研究科の笹野高嗣教授(口腔診断学)は「亜鉛摂取」を挙げる。亜鉛は味蕾の再生に不可欠の栄養素だ。牡蠣をはじめとする魚介類のほか、牛肉やレバー、卵黄にも多く含まれる。
「加えて、日常的に唾液がよく出るように心がけてほしい。たとえば、唾液腺マッサージなどが効果的です」
唾液腺マッサージは、両ほほの上の奥歯あたり(耳下腺)や、顎の骨の内側の柔らかい部分(顎下腺)、下顎(舌下腺)を5~10回、指で優しくマッサージして唾液腺を刺激することで唾液の分泌を促せる。
笹野教授がドライマウスの改善法としても患者に薦めているなかに「昆布茶」もある。昆布の「うまみ成分」(グルタミン酸)が味蕾に感知されると、唾液反射が起き、唾液を増やす働きがある。塩分を摂りすぎないように、所定の分量の3倍程度に薄めて30秒ほど口に含んで飲むといいという。硬い食感とやわらかい食感のものを一緒に食べて咀嚼刺激を与えることで、唾液を増やすこともできる。
笹野教授は、日常生活では「話すこと」を心がけてほしいともいう。
「特に高齢者の独り暮らしの場合、他人と会話をすることが少ないため、口まわりの動きが少なくなり、唾液が出にくくなっていく。極力、人と話すように心がけることも大事です」
“味が薄い!”と怒るのではなく、味覚の変化について、じっくり話してみるのもいいのかもしれない。
※週刊ポスト2017年10月13・20日号