「初心忘るべからず」──室町時代の能楽の開祖、世阿弥の言葉で、ビジネスや教育の現場で若者にエールを送る際によく聞く定番の格言だ。
テレビのニュース解説でおなじみのあるジャーナリストは、就職する若者に向けて「初心忘るべからず」の言葉を送り、「新鮮な気持ちを失うことなく、迷ったら初心を思い出すように」と説いていた。
しかし、実は本来の意味は違う。『ざんねんな偉人伝』など歴史関係の著作が多くある作家の真山知幸氏はこう説明する。
「これは世阿弥の書『花鏡』に記された言葉ですが、世阿弥のいう『初心』とは初々しさではなく、『芸が未熟だったころ』のこと。世阿弥は決して初心をいい意味に捉えていない。むしろ過去の自分の未熟さを心に刻むべきだと説いているのです」
※週刊ポスト2017年10月27日号