本来の意味から逸れた解釈が定着してしまった格言がある。西郷隆盛が言ったとされる「児孫のために美田を買わず」は、いまや「子供を堕落させてしまう恐れがあるから財産を残すな」と解釈される。
しかし、西郷が言い遺したかったのは、「子供を甘やかすな」という教訓ではなかったという。『ざんねんな偉人伝』など歴史関係の著作が多くある作家の真山知幸氏はこう説明する。
「この言葉は子育て論ではありません。子孫に財産を残そうと、私利私欲に走るようでは志を遂げることはできない、志を果たすためにはすべてのものを犠牲にする覚悟を持て、という意味で、自分自身への戒めの言葉だったのです」
格言が納められた西郷の金言集『南洲翁遺訓』には、「命もいらず、名もいらず」の言葉もある。死を賭してまで日本のために働いた維新志士の格言だ。
“死を賭して”といえば、肥前国佐賀藩士・山本常朝が『葉隠』の一節で説いた「武士道と云うは、死ぬ事と見つけたり」も有名だ。戦時中には玉砕を肯定する言葉として利用されもしたが、これも本来の意味ではない。歴史研究家の井手窪剛氏が指摘する。
「正しい解釈は、人間は誰しも生きて死ぬという無常観についての言葉で、それを前提として、自分の思うように生きよと説いているんです。死ぬためではなく、生きるための言葉なのです」
今後、若者に訓を垂れる際には、格言を用いるだけでなく、「実はこの言葉の本当の意味はだなぁ」と付け加えるのも忘れてはいけない。どちらにしてもウザがられそうだけど。
※週刊ポスト2017年10月27日号