北海道浜中町に設立した動物王国でさまざまな動物たちと一緒に暮らしてきた、ムツゴロウこと畑正憲さん(82才)。
今もヒマラヤンの「マー」と暮らす愛猫家でもある。ライオンに噛まれたり、ゾウに踏まれたり、全身全力で動物と接するムツゴロウさんは、猫とどんなふうに暮らしてきたのか。ムツゴロウ流猫の愛し方とは――。
* * *
ぼくはたくさんの猫と暮らしてきましたけど、なかでも忘れられないのは「ペコ」という名前の猫ですね。動物王国を設立する以前の、もう何十年も昔のことで、当時、ぼくはまだ横浜に住んでいました。
娘と一緒に1駅乗ったら1駅歩いて帰る、2駅乗ったら2駅歩いて帰るということをしていたんですけど、その途中にあった動物愛護協会に立ち寄った時に、しょぼーんとしている捨て猫がいて。娘と相談して、もらってきて飼うことにしたんです。
ぼくが家に帰ると、ペコはぼくの足音を聞いてスーッと玄関先にやって来て、文鳥のようにポンとぼくの肩に乗る。ぼくが「帰ったよ」と頬をすりつけて、「後で散歩行こうね」と言うと、スーッと家のなかに戻って行く。しばらくして「散歩行くよ」と言うと、またやってきて、ぼくらの後をついてくるんです。
猫はね、道を歩くより、暗いところを歩くのが好きなんです。ペコは側溝に降りて、側溝の中をサーッと歩いてついてくる。そんな猫でした。猫は音の生き物なんです。音で全部わかる。だからぼくは、帰った時にわざとバタバタと大きな足音を立てたりしてね。ペコには本当にいろんなことを教わりました。
これまでにあらゆる動物とつきあってきましたけど、ぼくはマニュアル化してつきあったことはありません。猫も同じです。今、何がしたいのか、どうしてほしいのか、自分の体に聞いて、猫に聞いて、猫と相談しながらいい関係を結んでほしいと思います。
例えば、犬や猫には下痢になるからミルクをあげるな、という通説がありますけど、ぼくはへそ曲がりだから、3日続けて猫にミルクをあげてみたの。そうすると下痢が止まって、ミルクが大好きになりました。猫は生後5か月たつと乳糖を分解する酵素が出なくなるから、急にミルクを飲まされるとアレルギー反応を起こして下痢しちゃう。
でも、3日続けて飲んでいると、“分解すればいいじゃないか”と腸が思って、ミルクをちゃんと消化するようになるんです。だからウチの猫たちはミルクが大好きですよ(笑い)。
最近は、犬でも猫でも「こういう時はこうする」みたいに、飼い方をマニュアルで考える人が増えていますけど、それではその猫のことは理解できません。マニュアル通りに飼っていたら、時間がきたら餌をあげて、トイレをパッと替えておしまいになっちゃう。それじゃ、つまらないじゃないですか。
猫は1匹1匹、全部違うんです。ヒゲの生え方も、ヒゲの動かし方も違う。そういうのをよ~く見ながら、飼うというより、一緒に住む。あなたの目の前にいる猫は、個性を持ったただ1匹の猫なんだから、その目の前にいる不思議な物体にぶつかって、学んでいくことが大切だとぼくは思います。
※女性セブン2017年11月2日号