日本には有形文化財のうち、国宝に指定されているものが約1000件ある。そのなかで、日本に現存する最古の医学書とされているのが『医心方』だ。この6月に、概要書ともいえる「『医心方』事始」(藤原書店刊)が発売され、にわかに注目が集まっている。
平安時代の宮中医官・丹波康頼が編纂し、984年に時の朝廷に献上したもの。内容は、中国を中心としたアジア各国の200以上の医学や養生、鍼灸、陰陽道、占相、哲学などの文献からエッセンスを抜き出してまとめたものだ。
全30集に及ぶ膨大な巻物には、医学概論や体のあらゆる部位の治療法、薬物の種類や扱い方だけでなく、占いやセックスの方法まで当時は“医学”と考えられていた分野に関するあらゆる項目が並ぶ。
医心方は1984年に国宝に指定され、現在は東京国立博物館に所蔵されている。1000年以上前に献上された日本最古の医学書には、天皇皇后両陛下も大きな関心を寄せている。すべて漢文で書かれた原著は古典医学研究家の槇佐知子氏によって1993年から現代語訳が進められ、20年の歳月をかけて2012年に全30集が揃った。
「2000年以降、新たな翻訳書が刊行されるたび宮内庁を通して献上され、両陛下が愛読されたそうです。全巻の翻訳が完結した際には、槇さんに美智子さまから直々にねぎらいの電話があったといいます」(宮内庁関係者)
医学は日進月歩。紫式部や清少納言が活躍した時代に作られたと聞けば、歴史的価値はあっても、まさか役に立つはずがないと思うだろう。だが意外なことに、医心方には現代に通じる目からウロコの知識も盛りだくさんだ。
《立派な医者は、病気を治療するとき、必ず精神を安らかにして確固たる志を持ち、何も欲せず何も求めず、まず仏のように広大な慈悲と憐憫の心を持ち、霊魂ある者の病疾を救おうと誓願すべきである》(『医心方』・筑摩書房刊より引用)
※女性セブン2017年11月2日号