推定患者数が24万人を超えるとされる「味覚障害」。本誌・週刊ポストでは自覚症状が乏しいこの病の恐怖を度々レポートしてきたが、さらにその体験者たちの声に耳を傾けると、苦悩の深さが、改めて浮き彫りになった。この障害については「醤油の量が12倍になった……」といった嘆きも出ている。
「味覚障害」には、“たかが味の問題”では済まされない恐怖が潜んでいる。人間は舌にある味蕾(みらい)という器官を通じて感じた刺激を脳に伝達するが、様々な原因で伝達に異変が生じて、味の感じ方がおかしくなることがある。主な原因として、味蕾細胞を再生する栄養素である亜鉛の不足や、薬の副作用、ストレスや体調不良などが挙げられる。
薬の服用も多い高齢者ほど味覚障害を発症しやすく、味覚の異常から食が細くなったり、味の濃い食事を続けたりすることによって、さらに重篤な病気につながるリスクも潜んでいる。
原因がわからずに体験する人は多い。都内在住の堀良夫氏(69、仮名)は4年前、初期の肺がんを患って抗がん剤治療を始めた頃に異変が起きた。
「がんの治療中で、醤油やソースで味を濃くするのは避けていたけど、とにかく味がしない。米はまるで粘土の塊を食べているような感触でした。精神的にも不安定になって『まずいメシ出すなよ!』と家族に怒鳴ってばかりでした」