映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、正義漢を演じることが多かった俳優・加藤剛が、『影の車』『砂の器』と殺人犯を演じたときの思い出、歴史上の人物を演じるときに心がけていることについて語った言葉を紹介する。
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加藤剛は、正義漢を演じることが多い。だが、1970年『影の車』、1974年『砂の器』という、野村芳太郎監督、脚本・橋本忍、原作・松本清張による映画ではいずれも、自身の少年時代を引きずって殺人を犯してしまう男を演じている。
「『影の車』は私の中では非常に珍しい役柄でしたね。この時は野村監督にいろいろとご指導を仰ぎました。特に岩下志麻さんとのラブシーンは際どかったですし、そもそも苦手なんですよ。
『砂の器』は、私としてはあまりよくできたと思っていません。私より、私の少年時代を演じた子役の人や父親役の加藤嘉さんの演技がいいんで作品が良くなったんだと思います。菅野光亮さんの音楽に父子の旅の映像が乗っかったのが良かったということであって、私がどんなことをして、何を思っていたのかはもう忘れました。ピアノの指の動きや指揮の仕方は芥川也寸志さんに教わりましたが、武骨な指揮になりましたね。
実は、丹波哲郎さんの演じた刑事役を最初はやることになっていたんです。それで面接をしたら、その帰りに犯人役をやることに変更されたんですよ。
ただ、これはいつでもそうなんですが、僕は『この役はやりません』『嫌です』と言ったことは一度もありません。言われたもの、与えられたものをやるだけです。そして、言われた以上は、その役が作品の中で本当に生きるようにやる。それを一生懸命にやってきました」
古今東西の歴史上の人物を数多く演じてきた加藤。その演技にはいつも、「本当にこの人物はこういう人だったのだろう」と思わせる説得力があった。