愛する女性とのセックスの最中、幸福と快楽に包まれながらあの世へ──。そう表現すると“男の本望”のように思えてしまう「腹上死」。しかし、それが本当に幸せな死に方だったと証明する人は誰もいない。どれくらい苦しいのか、その時の相手はどんな立場に置かれるのか、そして亡骸と対面する家族の心情は──。
ある60代の男性が中学校の同窓会に出席した。そこで数十年ぶりに女友達と再会し、杯を重ねながら思い出話に花を咲かせた。会がお開きになった後、勇気を出して彼女をラブホテルに誘ったところ、黙って頷いた。その時の男性の心の躍りようは想像に難くない。
しかし、数時間後に悲劇が襲う。情事の後、まどろんでいた男性はうなり声を上げて意識を失った。女性は慌てて救急車を呼んだが、病院到着後に死亡が確認された。急性の心筋梗塞だった。これは数年前、医師でジャーナリストの富家孝氏の知人に起きた不幸だ。
「彼は若い頃から不整脈の持病があったそうです。性行為は心臓に負担をかけます。かつての同級生との再会セックスというシチュエーションは興奮するでしょうが、それが心拍数を急上昇させて最悪の結果を招いてしまった」(富家氏)
「腹上死」は密室での出来事であり、しかもそれが家族も知らない相手や場所ともなれば、複雑な“人間ドラマ”を引き起こす。富家氏が語る。
「死亡が確認されると、死因を判断する検死が行なわれ、事件性なしと判断されれば行政解剖に、疑いありと判断されれば司法解剖に回されます。検死は警察立ち会いのもとで監察医が行ないますが、一緒にいたパートナーは、セックスの流れや体位などを詳細に聞かれます。ただし腹上死の死因は脳か心臓の疾患が大半ですから、首絞めなどのアブノーマルなプレイをしていたとしても、窒息死でない限り罪に問われることは考えにくい」