ロングセラーとなっている絵本の中には、親子3代で受け継がれるという作品も少なくない。かこさとしさんの『からすのパンやさん』(偕成社)もそんな作品のひとつだろう。かこさんの編集担当を16年務める偕成社の千葉美香さんは、かこさんの絵本には深いテーマがあると話す。
「子供の頃は、みんな『からすのパンやさん』のパンがズラリと並ぶページの虜だったと思います。でも、大人になって改めて読み返すと、仕事をしながら子育てをする親の苦労だったり、子供たちが親を誇りに思う気持ちだったり、“家族”という深いテーマがあったことに気づきます。そうしたテーマを決して押しつけることなく絵本に込めるからこそ、子供には楽しく読んでもらえるんです」
かこさんは読者から届いたはがきを1枚1枚大切に読むという。親子3代で読んでいる読者も多い。
「かこさんは、“パンやさんの続きを描かなくちゃね”と、ずっとおっしゃっていて、4つ子たちが大人になった物語を2013年、40年ぶりに4冊同時に作りました」
さらに、今年は代表作の1つ『だるまちゃんとてんぐちゃん』が50年の節目を迎えた。こちらも新刊を来年1月、3冊同時に刊行予定だ。タイトルは『だるまちゃんとかまどんちゃん』『だるまちゃんとキジムナちゃん』『だるまちゃんとはやたちゃん』だ。91才になってもなお、子供たちのために意欲的に絵本の制作を続ける。福音館書店の寺久保未園さんは、こう話す。
「だるまちゃんはいたずらも失敗もする子供本来の姿。今回の新刊には、東日本大震災、福島の原発事故、戦中戦後より今も続く沖縄のかたがたへの苦労に対してこの3冊を作らずにはいられなかったというかこさんの想いがありました」
かこさん自身、戦争を体験し、終戦後に手のひらを返すような大人たちの態度にいたく失望した。
「これからを生きる子供たちには、自分で社会のよしあしを判断する力を持って育ってもらいたいと、子供たちの未来のために絵本制作をされているのだと思います」
※女性セブン2017年11月16日号