『死体は語る』(文藝春秋)の著者で元東京都監察医務院長の上野正彦氏は500例以上の「腹上死」の検死・解剖にかかわってきた。
「腹上死する人の多くはもともと心臓や脳になんらかの潜在的疾患を抱えていた。それに気付かずに性行為し、血圧や心拍数が急上昇して脳出血や心筋梗塞を起こすのです」(上野氏)
とくに高齢男性の場合、激しく腰を振り続けることは難しく、途中で休むことになる。この繰り返しの結果、自律神経のバランスが崩れ、血流が乱れて心筋梗塞などを引き起こすのだという。
上野氏が発表した腹上死に関する論文によると、「腹上死」に占める女性の割合は8%ほどで、9割以上が男性だった。死因の56%が心筋梗塞や冠状動脈硬化などの心血管系で、43%が脳出血やくも膜下出血などの脳血管系、その他が1%となっている。
「腹上死というと挿入中の死亡を想像しがちですが、発作が起きるのは行為後が大半で、特に心臓系疾患の場合は行為を終えてから数時間後のケースが多い。いわゆる“腹上死”のイメージに近いのは脳血管系の場合で、性交中や射精直後に突然意識を失うことがあります」(上野氏)
腹上死の発生場所は自宅、ホテル、愛人宅の順だが、男女の間柄は「夫婦」よりも「愛人関係」が多いというのは興味深い。