「今日は岐阜の田舎からやって参りました。東京に来ると、この六本木ヒルズもそうですが、本当に高い建物が多くて、ビックリしています(笑い)」
在宅医療の名医で、小笠原内科院長の小笠原文雄さんは、この日、六本木ヒルズ51階にいた。「六本木ヒルズクラブランチョンセミナー」の講師として、1時間にわたって講演を行うためだ。
最期を自宅で過ごす人々の奇跡と笑顔のエピソードを綴った『なんとめでたいご臨終』は発売4か月でたちまち6刷に。いまだに書店のベストセラーランキングを席巻している。
その日も、平日の昼にもかかわらず、ビジネスマンを中心におよそ80人が小笠原さんの話に耳を傾けた。在宅医療に取り組むようになったきっかけについて、小笠原さんは冗談を交えながらこんなふうに話した。
「ぼくは名古屋大学を卒業して、昔は開業する気はさらさらなかったんです。心臓が止まったり呼吸が止まったかた、つまり死んじゃったかたを7人歩いて退院してもらいました。そうしたかたがぼくの外来に来てくれて、臨死体験を聞くことが好きだったんです。
しかし、病気になり目を悪くしてしまったので、病院勤務は続けられない。だからしぶしぶ開業しました。すると、往診してほしいと言うかたがいたんです。とはいえ、往診で何をやったらいいのかわからなかったので、断りたかったんですが、妻から『お父さん、借金があるから断っちゃダメ』と言われて(笑い)。イヤなことを言うなぁと思いながら、往診を始めたんですね」
しかし、最期を自宅で過ごす患者さんたちが、病院勤務の時には見たことがないような穏やかな顔で亡くなっていくのを目の当たりにして、医療に対する考えが一変。小笠原さんは在宅医療に邁進していくようになる。
その中で、小笠原さんは1つの結論に至った。それは──入院せずに、退院して自宅にいた方が長生きできる人もたくさんいる、ということ。心臓が肥大し余命宣告を受けた人が、自宅に帰ったら心臓がみるみる小さくなって、10年間、1回も入院しないほど元気に。しかし、気管支炎になった時に、娘に勧められて入院する。小笠原さんは会場を見回して言う。
「みなさん、入院したら何が起こるかわかりますか? 入院したら、死ぬんですよね。それがわからない人が多いんです。自分が入院したいと思う人は、ぜひ入院していただきたいと思っています。しかし、退院して元気になったかたが再入院すると、それは悪くなるに決まっているんですよ」
◆朝ドラ見ている間に旅立たれ自分を責めていた人は…