認知症の母(83才)の介護にあたる53才のN記者。食べることを大事にしていた母が痩せていった姿に、「孤食」への問題を思った。
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私が必死でダイエットしてもなかなかやせないのに、「孤食」だった母は食事や生活環境で瞬く間にやせたり太ったりした。認知症以外に大きな病気もなく、何でも1人前はしっかり食べられる母だが、83才の体はやはり若いころとは違うのだろうか。神奈川県秦野市にある鶴巻温泉病院の管理栄養士で、在宅訪問栄養食事指導も行う高崎美幸さんに聞いた。
「食事って当たり前すぎて軽視されがちですが、生きるための基本中の基本なのです」
と言う高崎さん。NST(栄養サポートチーム)専門栄養士と呼ばれる、病気治療のために栄養状態管理を行う栄養士。つまり、病気を治すためにも全身の栄養状態が重要だということだ。
「特に高齢者は栄養不足になりやすいのです。まず食べる量が減ります。年齢とともに長年使ってきた内臓が疲れ、機能が落ちる。その結果、たとえば消化しにくい油っこいものが食べられなくなったり、心肺機能が落ちて食事の動作でも疲れ、たくさん食べられなかったり。
唾液や消化液の分泌も悪くなるので、食べても栄養を吸収しにくくなります。高齢者が漫然と服用しがちな不要な胃薬が消化吸収に悪影響を及ぼすことも少なくありません。また高齢者が食べやすいようにやわらかく調理したものは、調理の過程でビタミン類が喪失しやすく、概おおむね栄養価が下がってしまいます」
そして勘違いされやすいのが食事と運動の関係だという。
「若い人は、基本的に栄養が行き届いている状態なので、筋肉を鍛えるために、まず運動をしましょうといいます。でも高齢者は全体的に臓器の機能が落ち、いわゆる予備力がない状態。風邪をひきやすかったり、誤嚥して気管にばい菌が入るとあっという間に肺炎になったりします。栄養状態を万全にしないで運動すると、どんなにトレーニングを重ねても強い筋肉はできません。それどころか疲弊して衰弱してしまうのです。介護予防のために筋トレがすすめられますが、まずはしっかり食事からです」