「白石さんでしょうか?」。インターホン越しに本誌記者が問いかけると、数秒の沈黙を置いて、こんな答えが返ってきた。「…いえ、違い…ます。今…いません。どこでここのことを聞いたんですか?」。若い女性の声だった。
「妹さんですよね?」
「いや…違うんです」
そのままインターホンは切れた。
神奈川県座間市のアパートで男女9人の切断遺体が見つかり、死体遺棄容疑で白石隆浩容疑者(27才)が逮捕されたのは10月31日のことだった。その3日後、本誌・女性セブンは白石容疑者の母親と妹が暮らす家を訪ねた。
現場となったアパートから車で1時間。白石容疑者の実家からも1時間の距離だ。父や兄を残し、母親と妹は7年ほど前、逃げるように家を出て2人で暮らし始めたという。その後何度か転居して、2年ほど前から現在の家で暮らしている。
やっと訪れた平穏な生活は突然、切り裂かれた。家族が「殺人鬼」になった、それから母娘は──。
「きょうだいはいない。小さい頃に両親は離婚した」。白石容疑者は知人女性にこう語っていたという。
犯行現場となったアパートから車で約15分のところに、白石容疑者が幼少期から過ごした一戸建てがある。25年ほど前に建てられた、25坪ほどの土地に建つ2階建てだ。近隣住民が言う。
「お父さんとお母さん、妹さんの4人家族で暮らしていました。小さい頃は、妹さんの面倒をよくみる、優しいお兄さんでした」
父親は大手自動車メーカーの部品工場に勤めていたが、独立して部品の設計を自宅でするようになった。5つほど年下の妹は幼い頃から聡明で、県下でも有数の公立高に進学。名門私立大学を卒業したエリートだ。
一方で、白石容疑者は横浜市内の高校を卒業後、アルバイトをしていた地元のスーパーに就職するも、2年あまりで退職。電子機器販売会社に転職したが、それも長続きせず、パチンコ店のアルバイトなど職を転々。20代前半で、女性に声をかけてキャバクラや風俗店に紹介するスカウトマンの仕事を始めた。
なぜ、白石容疑者は「きょうだいはいない」という嘘をつくのか。もっというと、「小さい頃に両親が離婚した」というのも事実ではない。つく必要のない「家族についての嘘」に、白石容疑者の心象風景が浮かんでくる。精神科医の片田珠美さんが読み解く。