【著者に訊け】横田増生さん/『ユニクロ潜入一年』/文藝春秋/1620円
【本の内容】
潜入は、2015年10月のイオンモール幕張新都心店に始まって、店を変えながら断続的に、2016年12月まで1年あまりに及んだ。その幕切れは、『週刊文春』の連載が始まった2日後のこと。〈田中〉と名乗った著者の身元がバレたからだ。社員のほか、大学生や主婦のアルバイト、派遣社員の人に交じって仕事をした中で見えてきた現場の悲鳴とは。私たちが普段行くお店の裏側が活写されている。
企業の内部に潜入したスリリングなルポは、横田さんがユニクロについて書く2冊目の本にあたる。前著『ユニクロ帝国の光と影』で同社の長時間労働の実態を明らかにしたとき、ユニクロは名誉毀損だと出版社相手に2億円超の損害賠償を求める訴訟を起こした。裁判は出版社側が勝つが、その後も横田さんは全面的な取材拒否に遭う。
にもかかわらず、あるインタビューで柳井正社長は、「(ユニクロの悪口を言う人は)うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」と言い放った。このひとことが、潜入取材への「招待状」になる。
「社長みずからのお誘いかと思いますよね? それなら、実際に店舗で働いてみようと、幕張、豊洲、新宿のビックロの3か所でアルバイトを経験しました」
身元がバレないよう、妻とはいったん離婚。再婚して妻の旧姓を名乗ることにして、正々堂々、面接に臨んだ。
「妻の反応ですか? 『面白い!』って、自分で離婚届を取ってきてくれました」
潜入取材はバレたら終わり。うっかり落とすかもしれないので、職場に持っていく財布には新しい姓のカード類しか入れないなど所持品にも気をつけた。自宅近くの店舗で働いていたときは、知り合いがレジの列にいるのに気づき、レジ打ちの時間を調整して顔を合わせるのを防いだこともある。
ビックロでは、深夜までの長時間勤務も自らすすんで経験した。
「体はきつかったけど、面白かったですよ。社内では誰も突っ込む人がいないから柳井社長も言いたい放題。それを『部長会議ニュース』で毎週読めて、ワクワクしました(笑い)」
人件費抑制のためのひずみは海外にも及ぶ。横田さんは、カンボジアや、中国の下請け工場に潜入した香港のNGOにも取材した。
「ぼくが会ったNGOのメンバーは一見、女子大生みたいなんですが、話すとすごい闘士でした。ぼく自身、アマゾンや宅配業者に潜入してきましたが、潜入取材って、50代のおっさんより、体力も時間もある若い人の仕事だと思うんです。若い人が全国的にがんがん潜入取材したら面白いし、すすんでノウハウを伝授しますよ」
(取材・文/佐久間文子)
※女性セブン2017年11月23日号