行く先々の温泉へドボンと沈むのも密かな喜びで、60年の人生で巡った温泉は400湯以上。女性セブンの還暦名物記者・オバ記者こと野原広子が秋の肌潤う秘湯を紹介!
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「ダメ、こっちは来ちゃダメ」
私が灰色のビーチドレスのような湯あみ服を着て、ズカズカと大浴場に入っていったら、おじさんたちが口々に言うの。
そして「ほら、これ」と木の看板を指さす。
見れば、「←男」と「女→」の文字。仕切りこそないけれど、おおざっぱに湯船に境界線を作って、男女が交ざらないようにしていたのね。温泉好きが集まって話すと、必ず名前があがるのがこの青森県酸ヶ湯温泉。
「聞きしに勝る湯力」とか、「まとまった休みが取れたら、次は湯治をする」とか。「なるほどな…」と心底、納得したのは、総青森ヒバ造りの大浴場『ヒバ千人風呂』から出てから。
いつも眠れないほど冷える足先が、2日たち、3日たってもポカポカ。パリパリに固まっていた首や肩は、いったいどこに行った? そのくらい軽やかなの。
千人風呂の湯船は「熱湯」と「四分六分の湯」の2種類。そして、かぶり湯の「冷の湯」と、打たせ湯の「湯滝」の4種類。湯治客にはそれをどんな順番で何分ずつ浸かるのか、温泉療養医や看護師たちが指導をしてくれるのだそう。
ちなみにお湯の中で仲よくなった男性は栃木県からいらしたかた。女性陣は神奈川県など、有名な温泉地が多くある所から、わざわざここまで。
混浴といってもすっぽんぽんは男だけで、女は湯あみ服を着用してもいいし、木製のつい立てで囲われた女性用の湯船もある。朝、夜の8~9時は大浴場が女性専用になるなど、さまざまな配慮がなされていた。
※女性セブン2017年11月23日号