女性をとりまく環境が変化し、性にまつわるトラブルが複雑化するなか、日本の司法にも変化が生まれつつある。今年7月には、明治時代の刑法制定以来、110年ぶりに性犯罪規定を厳罰化する法改正が施行された。最大のポイントは、「強姦罪」が「強制性交等罪」に変わったことだ。
「これまでの『強姦罪』は『陰茎の腟内への挿入(姦淫)』のみが対象でしたが、『強制性交等罪』では、“口腔性交”と“肛門性交”も構成要件に含まれるようになりました。今後は被害者が男性器を無理やり口に入れられたというケースもレイプと同じ扱いになります。また強姦罪では、被害者は女性だけでしたが、強制性交等罪では、性別を問わず被害者になります」(上谷さくら弁護士)
強姦罪の法定刑の下限が懲役3年だったのに対し、強制性交等罪では5年に引き上げられた。これまでは被害実態に比べてあまりにも刑が軽く、被害回復を遅らせる一因になっていたが、今後は原則として執行猶予がつかない実刑になる。
また、強姦罪は被害者の告訴が必要な「親告罪」だったが、強制性交等罪ではこの規定が削除された。
「被害者が勇気を振り絞って警察を訪れても、親告罪だと『事件にするかどうかはあなたが決めてください』と被害者に判断を委ねられるため、心が折れて告訴を断念するケースが多かった。親告罪の規定がなくなることで、警察に相談すれば国が責任を持って捜査して裁判できる体制が整ったことは、被害者にとっても大きな前進です」(上谷弁護士)
制度そのものだけでなく、裁判の判例も少しずつ被害者に寄り添ったものに変わりつつある。これまで、最高裁の判例では、『性欲を刺激させたり満足させたりする意図』がなければ強制わいせつ罪は成立しないとの見解が長く支持されてきた。「第三者に脅迫されて、性的欲求のないまま性暴行におよんだ」という動機であれば罪に問われないケースがあったのだ。
実際、最高裁は1970年、報復目的で女性を裸にして撮影したとして強制わいせつ罪に問われた男の判決で、「性欲を満足させる性的意図が必要」とし、同罪は成立しないと判断した。しかし半世紀を経て、その判例が変わろうとしている。
2015年に13歳未満の女児にわいせつな行為をしてスマートフォンで撮影したなどとして当時30代の男が起訴された事件では、男は強制わいせつなどの罪に問われた。この男は裁判で「知人から金を借りる条件として要求され、撮影した。性的意図はなかった」とし、強制わいせつ罪には当たらないと主張。だが一審と二審は、1970年の最高裁判例は相当ではないとして強制わいせつ罪の成立を認めて実刑判決を下した。今年6月、この事件は最高裁第三小法廷から、判例変更をする際などに開かれる大法廷へ回付されており、約50年ぶりに最高裁判例が変わることになるかどうかが注目されている。
時代に合わせて法律も変化する。それ自体は歓迎すべきことだ。
だが法律とともに、人々の意識も変わる必要がある。
「法改正と同時に、被害者が声を上げやすい空気をつくるのも大事なことです。被害者が声を上げられるようになれば、加害者が弱みにつけ込むことはできなくなります。まだ先は長いですが、その意味では一歩前進だと思う」(エッセイストでタレントの小島慶子)
※女性セブン2017年11月23日号