次々に夫や恋人が死んでいく──逮捕された女は“後妻業”や“毒婦”と呼ばれ、ついに裁判では極刑を言い渡されたが、事件はいまだ多くの謎を残したままだ。一見して“関西のおしゃべり好きなオバちゃん”は、なぜ戦後史に残る殺人事件を起こしたのか。約3年前の事件発覚時から独自取材を重ねてきたノンフィクションライター・小野一光氏が、法廷で明かされた新事実とともに解き明かす。
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「すいません。私、耳が遠いんで、もっと大きな声で言ってください」
そう言った後に起立した筧千佐子(70)に対し、裁判長は少し語気を強めて言い渡した。
「主文、被告人を死刑に処する」
千佐子は証言台で前を見つめたまま、表情を変えることはなかった。
6月26日の初公判から11月7日の判決まで135日間。のべ38回にわたって開かれた裁判員制度開始以来2番目に長い裁判は、こうして幕を閉じた。
交際あるいは結婚した高齢男性に対して、青酸化合物を服用させたとして、3件の殺人と1件の強盗殺人未遂罪が争われた。被害者は京都府の筧勇夫さん(75)、大阪府の本田正徳さん(71)、兵庫県の末広利明さん(79)、兵庫県の日置稔さん(75)で、起訴された4事件のいずれも有罪と認定された。