男女の性の違いに切り込んだ『先生の白い嘘』などの作品で知られる話題の漫画家・鳥飼茜氏。これまで、女性ならではの鋭い視点で描いた多くの作品を世に送り出してきた。そんな彼女の最新作が『前略、前進の君』だ。
同作は漫画誌ではなく、20代を中心に人気を誇るカルチャーファッション誌『Maybe!』で連載している(2015年~)。同誌の11月16日発売号で最新の5話目が発表された。
物語は1話完結で、毎回、焦点の当てられた1人の少女の視点で進む。彼女たちの悩みは恋愛だけでなく、性の違う男子社会への憧れや「普通」を求めて売春に手を出す少女まで幅広い。そうした心の衝動に向き合う少女の姿を、大胆な構図と筆致で描いている。作品が誕生した経緯を鳥飼氏が語る。
「雑誌のテイストに合わせて、10代の女の子に向けた少女漫画を作るというのが基本路線としてありました。でも私自身、少女漫画出身ですが、上手く描けずに青年誌に移行した人間なんです。なので、王道っぽい『王子様的な男の子に恋してハッピーエンド』じゃない少女漫画を描こうというところが出発点でした。
タイトルの『前略、前進の君』は前へ前へと重ねる言葉の強さと、10代に向けての手紙のようなイメージでつけました。ちなみに『前前前世』より私のほうが先ですから。あれ、似てません?(笑)」
鳥飼氏は、「作家は人間の単純明快な欲求に応えるだけではいけない」と話す。今作でも、少女たちの恋心や悩みを決して美化して描いていない。
「わたし、善悪がハッキリしてスカッとさせようとするテレビ番組とかが、大っ嫌いなんですよ。みんなの安易な欲求みたいなのが怖い。人間は単純明快なものじゃない。だから今回は人生のスタートラインに立つ前の女の子たちに、これまで見たことがないような少女漫画で、トラウマを植え付けてやるつもりで描きました(笑)」