近年注目を集めているのが、自分の言葉で自分語りをするオーラル・ヒストリーだ。書店を訪ねれば、多くのオーラル・ヒストリーが書棚に並んでいるが、どれを選べばよいのか? 政治学者の御厨貴氏が名著7作を紹介する。
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オーラル・ヒストリーとは何か。人の記憶を呼びさまし、記録をとり編集して広く一般に読んでもらう作業全般を言う。語る人は公人、芸術家、フツーの人とその幅を次第に広げてきた。
ともすれば、政治家や官僚の一度限りの体験談を追い求めるのが、オーラル・ヒストリーの手法と勘違いされてきた。読む人の心に響くのは、個々の体験が普遍性を帯びているかどうかだ。自分自身の30年近くの実践の中で、その答えは少しずつ明らかになってきた。
今私は「オーラル・ヒストリー・クラッシックス」という分野を確立しつつある。その場限りのはやりでいずれ読み捨てられてしまうものではなく、時がたつに連れて、古典的価値に次第に磨きがかかってくる作品があるのだ。これには2つのタイプがある。
第1は、版を重ね版を改め、なお今日に至っても現役の定番として生き残った作品群である。【1】『岸信介証言録』(原彬久編)は、その筆頭に掲げられる。妖怪と言われた権勢の政治家と堂々と渡りあった雄々しい記録だ。原の問いかけも直球だが、岸の答えもど真ん中でなくともはずれてはいない。戦後政治を考える上で、はずせぬ一冊だ。
同じ原による【2】『戦後政治の証言者たち』もあげておこう。オーラル・ヒストリーを底本として藤山愛一郎、福田赳夫、三木武夫、赤城宗徳らを実にビィビィッドに描いている。