医学の進歩とともに遺伝子分野の研究が進んだため、病気は「遺伝」が原因となるのか、それとも生活習慣などの「環境」が引き起こすのかという古くからの課題でも研究が進んでいる。
日本人の死因の上位を占める脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)や心筋梗塞の場合、大腸がんのように病気を招く遺伝子そのものを親から受け継ぐわけではない。
「ただし、親が脳卒中になった家庭では、その子供も脳卒中を発症する確率が高くなります。なぜなら、遺伝によって高血圧や糖尿病、動脈硬化といった、“脳卒中になりやすい体質”を受け継いでいるからです」(くどうちあき脳神経外科クリニック院長の工藤千秋氏)
カリフォルニア大学のステファン・ラパポート教授が2016年に科学雑誌『プロスワン』に発表した論文では、脳卒中に占める遺伝的要因の割合は13.8%だったという。
しかし、脳卒中の中でも、くも膜下出血に関しては親に症状があった場合、子供の発症リスクが約9~10倍も高くなるとされる。
「これも病気そのものが遺伝するのではなく、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤(血管のこぶ)や脳動脈奇形が遺伝しやすいからです。
親が脳動脈瘤を持っている場合、子供も同様のこぶを持つ割合は10~30%とされます。脳動脈瘤が破裂する確率は0.1~0.2%と低く、親からこぶを受け継いだ場合もただちにくも膜下出血を怖れる必要はありませんが、こぶが遺伝していない人よりも生活習慣をしっかりと改める必要があります」(工藤氏)
※週刊ポスト2017年12月1日号