定年退職を機に、1日のスケジュールや行動範囲、人付き合い、懐事情が変われば、酒を飲む店が変わるのも当たり前。しかし、味や値段だけのランキングを見ていても、本当に居心地のいい店には巡り会えない。呑兵衛の達人は、店に入ってどんな所をチェックするのか。数多くの“居酒屋本”を出版している作家・太田和彦氏はこんなチェック方法を語る。
「店内のレイアウトは、主人が客席の隅々まで見渡せる配置が理想的です。メニューを見ていた客が顔を上げると、お店の人が注文を取りに来てくれる。空になったお銚子を軽く振っただけで、主人が新しくお燗をつけてくれる。そんな気配りが居心地の良さにつながります」
カウンター席にこだわりを持つ達人も多かった。『おじさん酒場』の著者で、自らも飲食店を経営する山田真由美氏はこう話す。
「下町には“コの字”カウンターのお店がたくさんあります。注文に即座に対応し、少人数で多くのお客を捌くことができるので、結果的にコスト削減のメリットがある。その分を食材に回すことができるので、安くておいしいお店が多いのだと思います」
B級グルメライターの柳生九兵衛氏も、「常連の一人客はカウンターに座ることが多い。カウンターが常に混み合っている店は、“おひとりさま”にとって居心地の良い店だと判断できます」と言う。清潔感も重要だ。
「たとえ古い店であっても清潔感があれば、居心地が良いだけでなく、料理にも手間ひまを掛けている可能性が高い」と達人たちは口を揃える。なかでも前出・山田氏はこんなポイントを挙げた。
「私が注目するのは、換気扇上のステンレスのフードです。厨房の中でも手が回りにくい箇所なので、ここが綺麗だと、店内の隅々まで掃除が行き届いていると考えられますね」