演じたのは『火焔太鼓』と『中村仲蔵』の2席。古今亭志ん生十八番『火焔太鼓』は「志ん生のギャグを抜くと噺がなくなっちゃう」くらいの演目だが、志らくは二ツ目時代にこれを全編オリジナル・ギャグで作り替え、談志をして「志らくの十八番」と言わしめた逸品。今なお色褪せないが、この日の客席のウケ方は、明らかに「初めて志らくの『火焔太鼓』を聴く」人たちが多いことを物語っていた。
志らく版『中村仲蔵』は「志らくの演劇論」とも言うべき作品。歌舞伎の名優の苦心譚だが、志らくは自ら劇団を主宰する「演劇人」としての解釈を存分に盛り込んだ斬新な演出で2009年に初演、サゲも独自に創作した。聴くたびに進化していて、今回も新たな演出が何ヵ所か加えられていた。
落語が冬の時代を迎えた1990年代、「落語は古臭くない」と強くアピールしたのが立川志の輔と春風亭昇太、そして志らくだった。とりわけ、古典に現代を大胆に導入した志らくの先鋭的な演出は若い世代に人気を博し、後の落語界に大きな影響を与えた。今、春風亭一之輔や桃月庵白酒が古典で思いっきり暴れられる土壌を耕したのが志らくだったと言ってもいい。
「ガッテン!」志の輔、「笑点」昇太に負けじと、「ひるおび!」志らくの快進撃が始まった。
●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。
※週刊ポスト2017年12月1日号