高齢者の多くが便秘に悩んでいるといわれる。しかし食事にしろ運動にしろ、あまり激しい対策は難しい。なぜ高齢者は便秘になりやすいのか。予防や改善の手立てはないのか…。日々、訪問看護で高齢者の介護に取り組み、特に人の尊厳にかかわる排泄ケアを重要視しているという東京都北区・あすか山訪問看護ステーション所長の田中道子さんに聞いた。
「高齢者は基本的に便秘しやすいものです」
訪問看護でケアする高齢者の多くも便秘に悩まされていると、田中さんは語る。
「理由は体のさまざまな機能が衰えるためですが、主に次のようなことがあります。
●筋力が落ちている
排便をするには、トイレの便座に腰かけ、足を踏ん張り、便を出すために腹圧をかけるなど、意外に多くの筋力が必要です。この体勢を維持し、力が出し切れないと、最後のところで便を押し出せず、便意が遠のいてしまう場合も。
●腸の機能が低下
便を送り出す大腸の蠕ぜん動どう運動が加齢により弱くなります。また大腸を吊り上げている腹横筋や腹斜筋も弱くなり、大腸の横行結腸がたわんでしまうため、便が腸内に停滞しやすくなります。
●食事量が少ない
便はある程度のカサがないとスムーズに出ません。食べる量が少ないと便の材料が足らず、また軟らかく調理した介護食も便の形になりにくく、便秘になりやすいのです。
●水分摂取量が足りない
水分が足りないと、便が硬くなり、出にくくなります。高齢者はのどが渇く感覚が鈍くなるため、意識して摂らないと脱水状態になることも。失禁を心配して本人が水分摂取を控えている場合もあります。
●睡眠不足
排便は自律神経の影響を大きく受けています。高齢者は生活時間が不規則になりがちで、日中の活動量が少ないと、夜眠れなくなり、ひどいときは昼夜逆転に。こうなると自律神経のバランスが崩れて、便秘を引き起こします。多くの高齢者の便秘の主要因です。
●環境の問題
トイレの場所が遠かったり、わかりにくかったりして、便意があったときにすぐにできないと便意が遠のいてしまいます。移動介助が必要な認知症の人の場合、便意をうまく伝えられないこともあります。
●介護態勢の問題
介護を必要とする高齢者は、排泄の失敗に対する恐怖心を必ず持っているため、自然な便意が来たときに我慢をしてしまうことがよくあります。
便秘というと体の問題ばかり注視されがちですが、環境や介護態勢などは高齢者にとって見落とせない問題です」
※女性セブン2017年11月30日・12月7日号