出産の常識は、時代とともに様変わりしているのかもしれない。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
* * *
19大(中国共産党第19期全国代表大会)のキーワード一つに「脱貧(脱貧困)」を据えた中国には、いまだ5000万人の極貧層(1日1ドル以下で暮らしている人々を指す)を抱えているとされる。
一方、その中国からは、海外で地元の人々を驚愕させる“爆買い”ができる観光客が長期休暇のたびに700万人という規模で吐き出されてくる。
いったいどっちの中国を見て中国を語るべきか迷うところだが、どちらもしっかり併存している。
そんな中国から届いたのは、「セレブ」のエピソードだ。
曰く、中国全土でいま出産を控えたセレブ向けの高級マタニティ(産前・産後)クラブが続々出てきているというのだ。『中国新聞ネット』が10月25日に伝えた記事は、鄭州の事情をルポしたものだ。
興味深いのは鄭州のある河南省は、中国でも貧しい地域として知られる場所で、かつては貧しさのあまり売血する人が後を絶たず、そのためにエイズが爆発的に広がったという問題があった土地だ。
その鄭州を取材した記事の見出しが、〈鄭州の高級マタニティクラブ 平均で2万元(約34万円) なかには月に11万元(187万円)を消費する妊婦も〉なのだ。
記事によれば、鄭州のマタニティクラブは2016年の初めには、たった13ヵ所しかなかったが、現在ではそれが50ヵ所を越えて増えたというのだ。ちなみに2010年には市内に一軒あるのみだった。
同クラブの利用は、主に産後である。出産で体力が落ちてしまったお母さんとその子供を預かり、28日間手厚くケアして子育てに必要な知識を伝授するというものだ。夫婦二人の家庭であれば、出産直後から家事をしなくてはならず、大変だ。夫の両親と同居していても気疲れがある。お金さえあればプロに委ねたいというのが、このクラブが受けている理由なのだろう。
しかし11万元というのは例外としても、平均して2万元から4万元が相場というから決して安くはない。