高齢者の慢性的な便秘は深刻で、薬を処方されている人も少なくない。日々、訪問看護で高齢者の介護に取り組み、特に人の尊厳にかかわる排泄ケアを重要視しているという東京都北区・あすか山訪問看護ステーション所長の田中道子さんは、こう語る。
「便が腸内に停滞すると、不快感、食欲不振などはもちろん、便が毒素を発し、健康に大きな害も及ぼします。ひどい痛みを伴う腸閉塞や大腸がんなどのリスクも高まります。そのため医療機関では、便を排泄することを第一に考え、薬が処方されるのです。
ただ、一時的に薬で便秘を解消しても、食事や睡眠、環境、介護態勢などの問題が改善・解決されていなければ、結局また便秘になり、次はさらに強い薬、多量の薬が処方されることになり、自力で排泄する機能がますます衰えてしまいます。まずは生活の中で、自ら改善・解決できることから始めましょう」
便秘しにくい体・環境づくりは、以下の通り。
【1】食事
・規則正しく。
・小食気味なら、おやつなどで回数を増やす。
・野菜など食物繊維を摂る。
・乳酸菌食品、発酵食品など腸を整える食品を摂る。
・水分は1日最低1リットル以上。
【2】睡眠
・日中できるだけ活動し、夜にしっかり睡眠をとる。
・昼夜逆転しないよう注意。
【3】マッサージ
・腸内の動きを促すマッサージを。残った便の排泄に効く、追い出しマッサージのやり方は、3つ。
(1)仰向けに寝る
力を抜いて仰向けになり、腰の下にクッションなどを挟むと腸の位置がわかりやすい。
(2)へその右側から
へその右下あたりから、手を重ねて指先に力を込め、上へ、左へ、下へと順に圧していく。手の感触で便の位置がわかったら、直腸へ向かって動かすように圧す。
(3)S状結腸は力を入れて
直腸へ向かう折れ曲がった部位にあるS状結腸は便が停滞しやすいところ。少し手前からグッと力を入れて圧す。
・心地よさを感じるボディータッチも有効。
【4】環境
・便意を感じたときにすぐにできるよう、家の中のトイレ環境や外出先での場所の確認などをする。
・便失禁などを恐れて排便を我慢させないよう配慮する。
【3】で紹介したマッサージは、自分の腸内をイメージし、便を動かすつもりで行うのが効果的。
「自力で出そうとする意識を持ち、緊張とリラックス(交感神経・副交感神経)のメリハリをつけることも、意外に効果があります」(田中さん)
それでもダメなら、そこで初めて薬の力を借りてもいい。薬にもいろいろなタイプがあるようなので、かかりつけ医に相談するとよさそうだ。排便にはタイミングとリラックスが大事。私たちなら自分のタイミングを見計らい、リラックスを心掛けることは難しくないが、高齢者には手助けが必要かもしれない。
「排泄は人の健康の要ともいえる重要な行為ですが、一方で究極のプライベートであり非常にデリケートな問題です。自分の排泄に他人の関与を欲する人はいません。そして高齢者の多くが、たとえ家族でも、排泄で迷惑をかけたくないという思いを強く持っているのです。
だからこそ、見守る家族は“排便を我慢していないかな”“トイレが遠くて使いにくくないかな”と、さり気なく心を砕いてほしいのです」(田中さん)
※女性セブン2017年11月30日・12月7日号