町山智浩氏、水道橋博士氏らが絶賛し注目を集めている映画『全員死刑』(全国公開中)。原作は福岡県で起きた4人連続殺害事件で、父、母、兄とともに逮捕され全員死刑判決となった一家の次男による犯行手記を基にしたノンフィクション『全員死刑』(鈴木智彦著、小学館文庫)だ。同作のプロデューサー・千葉善紀氏は、これまで『冷たい熱帯魚』『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』など、実際の事件をベースにした数々の犯罪映画を手がけてきた知る人ぞ知る人物だ。なぜ、この事件を映画化しようと思ったのか。
「小林勇貴監督が、Facebookに『これを映画化したい』と書き込んでいて、その時は別な企画を進めていたんだけど、やっぱ、『これだ』と思ったんです。僕も原作を読んでいて、この事件を小林監督が映画化したら面白いものになると確信した。
映画化できる事件とできない事件の基準というのがなんとなく僕の中ではあって、まず主人公に魅力を感じてしまうというのが共通点なんです。『冷たい熱帯魚』であればでんでんさん演じる犯人の異常さ、『凶悪』であればリリー・フランキーさん演じる指南役とピエール瀧さん演じる実行犯の関係性が、面白い。不謹慎な言い方になりますが、彼らには笑えてしまう人間的な魅力があるんです。深刻すぎる事件だと、映画化の興味が湧きません。
今回はその意味では、事実は小説より奇なりというか、事件そのものがコメディに見えてしまうという奇妙さがある。殺したはずの人間が何度も蘇生してしまうとか、理由も無く人を簡単に殺してしまうとか、脚本家が書いたらかえってネタにしかならないような場面がいくつもあるんです。その事実の積み重ねが想像を超える映画になるのであって、それこそが実録モノの魅力ですね」(千葉氏)
千葉氏は近年、実録犯罪映画に力を注ぐ理由をこう語る。
「人と違うことがやりたかったんですよ、ほかの映画会社と同じことやってても目立たないし。昔の日本映画には実録犯罪映画がたくさんあったのに、みんなコンプライアンスとかに配慮してそこを避けていた。でも、観客はみんな映画の中で作り物じゃない本物の狂気を見たいという人間の根源的欲求みたいなものがあるんですよ。『冷たい熱帯魚』も最初は日本では誰も観ないと思ったから、会社に嘘ついて海外向けの映画として作ったんですけど、結果的には日本でいろんな賞を取ったりして多くの観客の支持を得た。
もちろんそこには園子温監督という強烈な監督のスパイスがあればこそ。『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』も白石和彌監督の存在が大きかった。実際の事件を監督がどう映画化していくかというその組み合わせ、掛け算に興味があって、今回も20代の監督がやったらどういうふうになるんだろうと思っていた。結果? いや、びっくりしましたね(笑)」