【著者に訊け】小山健さん/『お父さんクエスト』/ポプラ社/1296円
【本の内容】
育児をテーマに思い切り遊んでいる、そんな感じのエッセイ漫画だ。子供を望みながら、なかなか妊娠できなかったわけや、待望の妊娠・出産をひかえた不安など、その時々の心境が描かれる。どんな場面も、上から目線の教訓とは無縁で、夫婦それぞれのだらしなさやダメさも描かれる。だからこそ多くの共感を呼び、「サイン会で(妻の)さち子とは真逆なスレンダーな美女が、“私もさち子さんと同じです”なんて言ってくれたときは、みんな完璧じゃないんだな、と」(小山さん、以下「」内同)。
「育児がテーマだからといって、とりたてて慎重に、丁寧には扱わない。特別の主張もなく、あくまでも小山家ではこうです、という、基本はギャク漫画です。スケベ心も描きましたが、男はスケベなまま父親になります。それはもう本当に申し訳ない」
絵も文字も少々騒々しい。最初はこれが育児漫画!? と思う向きも多いかもしれないが、初めて父親になる男性の心の変化や、母と子への細やかな愛情がじわじわと伝わってきて、いつの間にか、小山家に幸あれと願わずにはおれなくなっているから不思議だ。
「もともとは妻の妊娠がわかったときから、子供のかわいいエピソードを描きついでいくつもりだったんです。ところが、0才児の赤ちゃんって、何もしないんですよね。誤算でした」
というわけで、妊娠前にさかのぼって、小山くんとさち子さん夫婦の日常が明かされるのだが、
「お互いに子供はほしかったんです。でも、しばらく前からセックスレスなんだから、できるわけがないと諦めていた」
さち子さんの提案で不妊クリニックにも通い、待望の妊娠! 爆発する喜びは、画面いっぱいに飛び散る涙や汗や唾となり、さらにギャグ色を強めていくが、その中に命の尊厳や不思議さものぞく。
かくて、長女「ちーこ」誕生。もちろんミルクも作るし、げっぷもさせるし、育児には積極的に参加。男女共同参画による子育てを、などと内閣府が働きかけるまでもなく、ごく自然に、肩の力を抜いて若いパパは育児を楽しんでいる。
一方、娘の行く末を先取りして、心がざわつく。大学生になったときコンパでひどい目にあわされないか、とそこまで考える?
「娘なんて、あっという間に彼氏つくって、とよく聞きます。そのときぼくは、彼氏に自然に“よろしくな”と言えたらいいなあと思って。あとは娘に嫌われないようにしたい。いくつになってもお父さんのことを好きな女性に、今からリサーチしています。それ以外は、何かを期待したり、求めることはやめておこうと思ってます。ただ、どんなことでもいい。好きなものを持つ子であってほしい。ぼくが絵が好きだったように」
この父の下、ちーこちゃんが幸せな娘であることは、間違いない。
撮影/黒石あみ、取材・文/由井りょう子
※女性セブン2017年12月14日号