世間では連日のように「不倫」の話が取り沙汰されるが、漫画の世界でも「不倫×SF」というテーマを描いた異色作『あげくの果てのカノン』(『月刊!スピリッツ』にて連載中)が注目されている。この作品は、作品の内容と同時に、男女の不倫関係を描いている著者が「恋愛自体が苦手」と言って憚らない25歳の独身女性であることでも注目されている。著者の米代恭氏は、どのようにして不倫のリアリティを作品に落とし込むのか。創作の“舞台裏”を聞いた。
「もう全然分からないので、不倫のリアリティについては、飲み会で友達から『この人は不倫してたんだよ』とか『されたんだよ』と紹介してもらったりしてます。最近は初対面でも、『早速ですが、不倫してた時って~~』ってサクサク訊いちゃいますね(笑)。
あとは、普通にネットのコラムや人生相談とかで悩みや生活についての投稿を見て『へぇ~』って思ってます。恋愛のハウトゥー本とか、不倫の本をたくさん読みました。知識だけは豊富ですよ(笑い)」
物語の舞台は異星人の襲来により都市機能を失い、常に雨が降っている東京・永田町。そんな異世界に住むヒロイン・高月(こうづき)かのんは、ケーキ屋で働く普通の女の子だ。
しかし、かのんには1つだけ“変わったところ”がある。それは、高校時代から一途に先輩に恋心を寄せていること。それだけ聞けば可愛らしいが、相手の声を録音して四六時中聞いていたり、「好き」が妄信的なレベルなのだ。その恋のお相手「境先輩」は、異星人と戦う「世間のヒーロー」。大人になって運命的に再会したが、境先輩は既婚者に。そこから不倫関係に進展するが、次第に世間の批判を浴びていく──。
「かのんの不倫感情には全く共感できない」とまで断言する米代氏は、当初は「不倫」というテーマそのものが、世間に受け入れられるか不安を感じていたという。しかし意外にも、読者からは「かのんの妄信的な恋心」に対する「共感の声」が多かった。
「かのんは、境先輩のことを“信仰する”ように好きなんです。実は単行本の1巻が出た時に、世の中が不倫騒動で話題になって、ちょっとそっちの方向に強く寄ってしまいそうだったんです。
でも、そういう“信仰系女子”に共感してもらえた感触があって、『この方向でいいんだ』と思いました。私自身もオタク的な恋愛体質なので、そこはかのんに共感できる部分ですね」
そして、作品が描き出す最も根底にあるテーマは「変わらない」ことの難しさだ。作中でエイリアンとの戦闘で負傷した境先輩は“修繕”され、その度に少しずつ性格が変わっていく。そうした中で、「境先輩の性格が変わっても、同じように好きでいられるか」という問いが突きつけられ、物語が展開していく。