映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、『艶歌仕事人~中条きよし~ベストアルバム』が発売中の役者兼歌手、中条きよしが芝居と色気について話した言葉を紹介する。
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中条きよしは数多くの女優たちと共演してきたが、その中で最も上手いと感じたのは長谷川稀世だという。往年の時代劇スター・長谷川一夫の娘だ。
「長谷川稀世とだと舞台を一か月やっていても疲れないんです。
僕が芝居しようとすると引いてくれる。絶対に来ないんです。で、向こうが来ると僕が引ける。それから踊りも天下一品。『女優さんの踊り』と『踊りをやってる人の踊り』って違うんです。彼女の踊りは『上手くみせる』んじゃなくて、『きれいだな』と思わせてくれる。『ここが見せどころ』というのがハッキリと分かる。勉強になりました。
ただ『十六夜参上』という舞台で相手役をしてもらった時、中日の前にぼそっと言われたんです。『中条さん、これ以上上手くならないでね』って。
その真意は分かりません。でも僕は『これ以上、くさい芝居をしないでね。芝居をやり過ぎないでね』という意味だと思いました。何事もやり過ぎはよくないんですよね。
それでも、テレビの時代になってくると劇場はたとえ下手でも名前や顔が売れてる女優を大きく扱いたがる。そうすると彼女を三番手にせざるをえなくなります。それで彼女に出演を断られて。その扱いじゃ彼女は嫌だろうって、僕も分かるんですよ。ですから、後で謝られた時は『大丈夫、分かってるから。何もできないのが上に来るのは嫌だよね』って言いました」
中条は『極道の妻たち』シリーズなどで悪役を演じることもあるが、その時も色気や品格のようなものが漂っている。