東京都江東区の富岡八幡宮で、宮司の富岡長子さんが殺害され、運転手も刺されて重傷を負った事件。富岡さんの弟の富岡茂永容疑者との間にあった宮司の地位をめぐるトラブルにばかり注目が集まっているが、事件現場では、“もう一人の女”の異様さが際立っていたという。第一通報者に接触したノンフィクションライター・柳川悠二氏がリポートする。
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イベントの運営を手がけるAさん(41、自営業)は、12月7日の午後8時過ぎ、富岡八幡宮からほど近い自宅に帰ろうとしていた。地下鉄・門前仲町駅から大通りを歩いていると、一本の道を挟んだ富岡八幡宮の方向から人が争う声が聞こえてきた。最初は、カップルか夫婦の痴話喧嘩かな、と思った。しかし、叫ぶような声も耳に入ってきて、複数人による言い争いのようにも聞こえた。
その声色が尋常ではない。気になって富岡八幡宮の方向に歩いて行くと、境内脇の通りをスーツ姿の男性が歩いて行くのが見えた。さらにもうひとり、ニット帽を被り、黒い服を着た人物がゆっくりとした歩調で前方の男性を追いかけていく。
しばらく様子をうかがっていると、近所のコンビニエンスストアの方向から怒声が聞こえてきた。今度ははっきり、言葉を認識できた。
「お前だけは許してやる!」
その言葉の異様さにこれは大事(おおごと)だと、Aさんもコンビニに向かう。その時、先ほどの黒い服を着た人物とすれ違った。身長160センチほどで、中肉中背。性別は判然としなかった。その人物は、小さな赤い橋を渡って、富岡八幡宮方向に入っていく。Aさんはその状況をこう振り返る。
「単なるケンカにしては、声の感じが普通じゃなかったんです。怖かったんですけど、『お前だけは』という言葉がどうしても引っかかって。それで恐る恐る、コンビニに向かって歩いていたら、途中にある家の住人が棒を持って家の前に出て来ていて、『今、歩いて行った女の人は、日本刀を持っていましたよ』って。その道って、地元の人が積極的には利用しない道で、暗い場所だったから、日本刀に僕は気付かず、黒い服を着ていたのが女性だということもその時に分かったんです」
どこからか、「110番!」の声が聞こえ、Aさんはすぐに通報した。携帯電話の履歴にある通報時刻は午後8時26分。Aさんは第一通報者となった。
◆「首元に折れた日本刀が刺さっていました」
「日本刀を持った女が、富岡八幡宮方面に向かって橋を渡っていきました。ニット帽を被っていて、黒い洋服で……」
110番で出た警視庁の係員に状況を説明していると、コンビニ方向から若いカップルが走って来た。男性の方が、通報中のAさんに告げた。
「コンビニの前で、人が刺されています!」