社会のセーフティネットは堅持されるべきである。特に子供が露頭に迷うようなことがあってはならない。改めてそう考えさせる事件が中国で起きた。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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ネグレクト(育児放棄や虐待)の問題は中国でも深刻である。ここ数年、中国社会で大きな話題を呼んでいたのは、出稼ぎ労働者の子供たちが直面する惨状であった。
これはいわゆる留守宅児童の問題である。両親がともに都会に出稼ぎに出なくてはならない貧しい家庭を襲う問題だ。子供たちだけで暮らしていることで兄弟がそろって自殺するという悲劇が各地で起きた。
都会では塾に通う富裕層の子供たちが肥満に悩むというニュースがある一方でこうした悲劇が報じられるのだから影響は大きい。だが今回は、そうした悲惨な子供たちのニュースにも慣れた人々でさえ驚愕させた内容であった。というのも自分の麻薬の金欲しさに実子を売人に売り飛ばしてしまった父親のニュースであるからだ。
事件を詳細に伝えたのは、『華商報』(11月21日)である。その記事のタイトルは、〈麻薬を買うための金を工面するため、3人の実子を売ってしまった父親 二人息子を売って得た金はわずか8万1000元(約133万6500円)〉である。
事件を起こしたのは陝西省眉県で果物店を営んでいた夫婦である。二人は2007年に結婚し翌年に第一子、続いて2011年に第二子、2013年には三人目の子を授かっている。しかし、悪いことに2013年に夫が薬物に染まってしまうのだ。
その後は2016年まで金に困るたびに夫は子供を売り続けるのだが、夫婦は同年に離婚している。同じ年の9月には、やっと夫の行為が警察の目に留まり、逮捕となり事件が発覚した。
現在、夫に売られてしまった子供は、三人のうち二人が見つかっている。しかし一人はいまだ行方不明だという。なんとも悲惨な話である。