作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が「平成史」を語り合うシリーズ。今回は、2003年(平成15年)~2007年(平成19年)の出来事を振り返る。2人は、「中間団体の消滅」を論じた。
佐藤:2005年で注目したいのが、4月に起きた福知山線の脱線事故です。私はこの事故は労働組合の問題だと考えているんです。JR東日本では、公安警察によると革マル派が浸透しているとされるJR東労組が労働者を守っているからムリな仕事をさせないし、過密ダイヤも組ませない。だから事故が起きない。
片山:実際、3・11ではJR東日本の乗員、乗客に死者は1人もいなかった。
佐藤:地震直後、運転士や車掌は電車を放棄して乗客と高台に避難しました。会社のマニュアルにとらわれず、自分と乗客の安全を優先して行動したそうです。
しかし事故を起こしたJR西日本は、JR東日本に比べて労働組合が弱い。脱線事故は会社が定めた過密ダイヤに合わせようと、運転士がスピードを出しすぎてカーブを曲がり切れなかったのが原因です。
片山:労働組合は、国家と個人の間に位置し、個々を束ねる中間団体です。福知山線の脱線は、中間団体の機能が弱まった結果、使用者側の利益追求の姿勢に歯止めがかからなくなって起きた事故と言えるかもしれません。
事故の4か月後の郵政解散もまさに中間団体の破壊だった。小泉首相は「郵政民営化に賛成する候補者しか公認しない」と抵抗勢力と呼ぶ敵を作り、熱狂を生んだ。有権者はイデオロギーに関係なく、麻薬にやられたように投票しました【※注1】。
【※注1/2005年9月11日に行われた郵政民営化法案の是非を問う衆議院総選挙。反対派に「刺客候補」を立てた自民党が圧勝した】