大穴とされた球団だったが、フタをあけてみるとおさまるべきところにおさまった、という風にも見えてくる。大谷翔平のMLB移籍。立教大学非常勤講師として「スポーツビジネス論~メジャーの1兆円ビジネス」の教鞭を執る古内義明氏が解説する。
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「すべての男の夢は、自分の野球チームをもつことだ」
2003年5月15日。当時56歳だったアート・モレノは、エンゼルスを1億8000万ドル(当時のレートで198億円)で買収。しかも、キャッシュで支払った大富豪だ。この瞬間、モレノはメジャー史上初のメキシコ系オーナーとなった。
入団会見の席上、大谷翔平に背番号17番のユニホームを贈呈した男が、これからボスとなるモレノだ。メキシコ系4世として生まれた彼は高校卒業後、陸軍に入隊してベトナム戦争を経験。その後、名門アリゾナ大学でマーケティングを学び、屋外広告系の広告代理店に就職し、全米を営業して回った。同業種のアウトドア・システム社に転職したモレノは順調に同社を上昇軌道に乗せ、1996年に株式公開した後、インフィニティ・ブロードキャスト社に8億ドル(約880億円)で売却し、巨額の富を手にしたビジネス才覚があった。
プロスポーツビジネスへの初進出は、マイナーリーグだった。1986年に仲間と一緒にソルトレイク・トラッパーズを買収。続いて2001年には、アリゾナ・ダイヤモンドバックスにも食指を伸ばした。「メジャーリーグのオーナー」という夢を虎視眈々と狙っていたモレノは、2002年に初の世界一に輝いたアナハイム・エンゼルスに照準を絞った。巨大エンターテインメント会社のウォルトディズニー社は、ディズニーランドとの相乗効果やテレビコンテンツとしての魅力を考えてエンゼルスに投資したが、1996年から2002年の間に約1億ドル(当時のレートで110億円)の赤字を抱え、1998年から売りに出されていた。
「私が関わった中で、最も早いオーナーの承認だった」。当時のコミッショナーだったバド・セリグはこう話したように、通常、買収までのプロセスは数か月を要するが、30球団中20球団が賛成票を投じ、「モレノ・オーナー」が誕生した。