スペインの教会の柱に約100年前に描かれたキリストのフレスコ画の修復が、元の絵と違いすぎると世界中でニュースになったことがある。古くなっていたものの費用等の問題から手を付けられずにいたところ、寄付代わりに修復を担当すると申し出た80代女性による大胆な描画によって大きなニュースとなってしまった。文化財の修復と保存は、日本でも同じように悩ましい問題だ。日本の近現代史に欠かせない鉄道車両の保存に、ふるさと納税を取り入れた世田谷区の取り組みについて、ライターの小川裕夫氏がリポートする。
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2008(平成20)年から開始されたふるさと納税制度は、スタート直後は地味な話題だったこともあって世間の関心は高くなかった。しかし、自治体が和牛や海産物といった豪華な返礼品を用意すると状況は一変。自治体が税収を奪い合うようになり、返礼品も豪華競争の様相を呈する。激化する返礼品合戦に対して、総務省が各自治体に自粛を通知する一幕もあった。
海産物が獲れるわけでも、高級な和牛を飼育しているわけでもない東京23区の自治体は、ふるさと納税者が目を引くような返礼品を用意できない。そのため、ふるさと納税集めでは苦戦し、ふるさと納税によって多額の税が流出していた。
ところが、ここにきて東京23区のふるさと納税に対するスタンスにも変化の兆しが表れている。本来、ふるさと納税の趣旨は、故郷や自分にゆかりのある自治体への恩返しとして、居住地とは別の自治体に納税(寄付)する。そのかわりに住民税や所得税などが控除される仕組みになっている。豪華な返礼品で勝負するのではなく、本来の趣旨で納税してもらおう。そんな動きが広まっているのだ。
東京都世田谷区も豪華な返礼品を用意しない自治体のひとつ。このほど世田谷区は、ふるさと納税のメニューに新しい選択肢を加えた。追加されたメニューは、宮の坂駅前に保存展示している旧玉電車両の修復作業費用と沿線活性化イベントの開催費用の財源に充てるというものだ。世田谷区は、それらの目標金額を660万円に設定している。
東京都交通局が運行する都電荒川線と並び、東急電鉄の世田谷線は都内に残された貴重な路面電車として知られる。世田谷線は三軒茶屋駅と下高井戸駅とを結ぶ約5.0キロメートルの路線で、一日の乗車人員数は約5万7000人。近年、その数は微増しつつある。
世田谷線の中間あたりに宮の坂駅があり、隣接して区民センターが立っている。区民センターの広場に、今回のふるさと納税の対象になったデハ80形と呼ばれる車両が展示されている。