年末年始はじっくりと本を読む良いチャンス。『週刊ポスト』の書評委員が選ぶ書は何か? 評論家の川本三郎氏は、格差社会の共同生活を学ぶ本として、『あいまい生活』(深沢潮・著/徳間書店/1600円+税)を推す。川本氏が同書について解説する。
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シェアハウスという形を近年、よく聞く。共同下宿といえばいいか。一軒の家を何人かで借りる。一人あたりの家賃が安くすむ。
作者の深沢潮はこれまで、在日の悩みを主題にした『ハンサラン 愛する人びと』『ひとかどの父へ』などの秀作を書いてきた。困難な題材を、力みのない堅実な文章で書く。新作『あいまい生活』はシェアハウスに住む現代の女性たちの暮しを描いている。
読む前は、おしゃれな家に住むキャリアウーマンの話かと思っていたが、逆。格差社会の底辺にいる女性たちばかり。その貧しい暮しぶりに驚かされる。ここまで、貧困が現代女性たちを追いつめているとは。
東京の明大前駅から徒歩二十分ほどのところにある古ぼけた一軒家に六人ほどの女性が部屋を借りている。かなりの築年数。「ティラミスハウス」と名付けられているが「荘」のほうが似合う。プライバシーもほとんどない。ただ、家賃が安いのだけが取柄。
一章ごとに一人の女性が登場してゆく。誰もが満足な仕事に恵まれていない。先行きも暗い。格差社会といわれて久しいが、いま、こんなに苦しい生活を強いられている女性が多いとは。
ある三十歳の女性は、大学を卒業して勤めた会社が倒産してからはまともな仕事に就けない。採用試験に落ちた会社は五十社を超える。精神状態も悪くなる。なんとか生活保護を受けるが、それが心の負担になってしまう。コンビニのプリンさえ買うのを我慢する。
外国人技能実習制度を利用して来日した中国人の女性は、クリーニング工場で低賃金で働かされ、ついに逃げ出した。雇主のひどいセクハラにあった中国人女性もいる。シェアハウスにも隠れるようにして住んでいる。「金で解決する問題は文学のテーマにならない」という言葉が気楽な寝言に思えてしまうほどの厳しい現実があることを、深沢潮は静かな怒りで訴えている。
※週刊ポスト2018年1月1・5日号