ライフ

【川本三郎氏選】2018年に読みたい「格差社会の共同生活」

深沢潮・著『あいまい生活』

 年末年始はじっくりと本を読む良いチャンス。『週刊ポスト』の書評委員が選ぶ書は何か? 評論家の川本三郎氏は、格差社会の共同生活を学ぶ本として、『あいまい生活』(深沢潮・著/徳間書店/1600円+税)を推す。川本氏が同書について解説する。

 * * *
 シェアハウスという形を近年、よく聞く。共同下宿といえばいいか。一軒の家を何人かで借りる。一人あたりの家賃が安くすむ。

 作者の深沢潮はこれまで、在日の悩みを主題にした『ハンサラン 愛する人びと』『ひとかどの父へ』などの秀作を書いてきた。困難な題材を、力みのない堅実な文章で書く。新作『あいまい生活』はシェアハウスに住む現代の女性たちの暮しを描いている。

 読む前は、おしゃれな家に住むキャリアウーマンの話かと思っていたが、逆。格差社会の底辺にいる女性たちばかり。その貧しい暮しぶりに驚かされる。ここまで、貧困が現代女性たちを追いつめているとは。

 東京の明大前駅から徒歩二十分ほどのところにある古ぼけた一軒家に六人ほどの女性が部屋を借りている。かなりの築年数。「ティラミスハウス」と名付けられているが「荘」のほうが似合う。プライバシーもほとんどない。ただ、家賃が安いのだけが取柄。

 一章ごとに一人の女性が登場してゆく。誰もが満足な仕事に恵まれていない。先行きも暗い。格差社会といわれて久しいが、いま、こんなに苦しい生活を強いられている女性が多いとは。

 ある三十歳の女性は、大学を卒業して勤めた会社が倒産してからはまともな仕事に就けない。採用試験に落ちた会社は五十社を超える。精神状態も悪くなる。なんとか生活保護を受けるが、それが心の負担になってしまう。コンビニのプリンさえ買うのを我慢する。

 外国人技能実習制度を利用して来日した中国人の女性は、クリーニング工場で低賃金で働かされ、ついに逃げ出した。雇主のひどいセクハラにあった中国人女性もいる。シェアハウスにも隠れるようにして住んでいる。「金で解決する問題は文学のテーマにならない」という言葉が気楽な寝言に思えてしまうほどの厳しい現実があることを、深沢潮は静かな怒りで訴えている。

※週刊ポスト2018年1月1・5日号

関連記事

トピックス

希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
NASAが発表したアルテミス計画の宇宙服のデザイン(写真=AP/AFLO)
《日本人が月に降り立つ日は間近》月面探査最前線、JAXA「SLIM」とNASA「アルテミス計画」で日本の存在感が増大 インドとの共同計画や一般企業の取り組みも
週刊ポスト
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト