年末年始はじっくりと本を読む良いチャンス。『週刊ポスト』の書評委員が選ぶ書は何か? 翻訳家の鴻巣友季子氏は、“さりげない”LGBTを知る本として、『最愛の子ども』(松浦理英子・著/文藝春秋/1700円+税)を推す。鴻巣氏が同書について解説する。
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最近、SNSで話題の動画がある。ニュージーランドの議員が同性婚反対論者を説得する、実にユーモアの利いた弁論で、彼はこう言う。「いいですか、愛しあう二人に結婚を認めるだけです。あなた方の生活は何も変わらない。明日も陽は昇り、生意気な娘さんには口答えされます。一方、彼らには限りない利点がある」
なぜ性的多数者は少数者の法的権利を認めることに難色を示すのか。そのことへの違和感をさりげなく表現した小説がこの一年ほど目立つ。それらの作品は「LGBT」を正面切って論じたりせず、むしろ問題化しないことに、問題意識の提起があると言えるだろう。
保守派政治家たちが「LGBTも暮らしやすい社会を」と、実行する気のない公約を掲げる一方、文学者らは「LGBTが良いの悪いの言うこと自体がどうかしている、それは自然にあるものだ」と、静かな矜持をもって語りかけているようだ。
芥川賞を受賞した沼田真佑の『影裏』でも、ある男性の元恋人が男性であり、いまは女性に性転換しているということが、急にわかる。すると、今まで見えていた絵が微妙に陰影を深める。野間文芸新人賞を受けた高橋弘希の『日曜日の人々』は自殺志望者の自助組織を描いているが、同性愛者の存在が一つのキーとなっている。さらに、川上弘美の日常SF『森へ行きましょう』でも、高校生の淡い恋愛の先に意外な展開が待つ。