日本海沿岸には毎年、北朝鮮の木造船が多く漂流・漂着しているが、とうとう脱北目的ではない木造船の“漁師”が上陸する事態となっている。彼らは本当に安全な漁師なのか、そして、膨れ上がる対処費用などの懸念について、朝鮮半島問題研究家の宮田敦司氏がレポートする。
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北朝鮮籍とみられる木造船の日本漂着が相次いでいる。11月だけでも北海道で10人、秋田県で8人の乗組員が警察と海上保安庁に保護・拘束された。このうち、北海道では乗組員10人のうち3人が無人島(松前小島)にあった物品を盗んだとして窃盗容疑で逮捕された。残り7人のうち1人は道内の病院へ入院、6人は札幌入国管理局に引き渡された。
秋田県で保護された乗組員8人は12月2日、宮城県の仙台空港を経由し、長崎県大村市の長崎空港に到着、同市内にある入国管理施設に移送された。
現時点では全員が帰国を希望しており、中国を経由して送還されることになると思われるが、果たしてすんなりと事が進むだろうか。
◆すべてが「自称」
海上保安庁や警察に拘束された乗組員の国籍や職業は、あくまでも“自称”である。ただし、北朝鮮の国民全員が持っている「公民証」(身分証明書)を持っていれば詳細が判明する(公民証には、氏名、性別、生年月日、民族、出生地、現住所、血液型が記入されている)。また、軍人の場合は「軍人証」を持っている(軍人証には、氏名、性別、生年月日、認識番号、入隊年月日、現住所、出生地、両親の姓名、血液型が記入されている)。
しかし、「公民証」も「軍人証」も所持していない場合は、国籍、氏名、職業、漂着の経緯など、すべてが自己申告となるので、大きな矛盾点がないかぎり供述内容を信用するしかない。
発見された木造船に「朝鮮人民軍第854部隊」と書かれた標識があったため、本当に漁船なのか問題になっているが、このような軍の部隊番号が書かれているものは、軍の「副業船」であることを意味している。漁業はもともと軍の管轄だったので、その名残なのかもしれない。漁業権の管轄については近年になって労働党へ移管されている。
漂着した乗組員のなかには工作員がいたのではないかという見方もあるが、工作員は事前に決められた日時と場所へ上陸する必要があるため、ほんとうに日本沿岸まで接近できるかどうかも分からないような船で、日本海を渡ってくることはない。