国内

事件や事故の実名と写真報道 ネット普及で議論に

事件や事故の実名・写真報道は必要なのか

 事件や事故が起きると、被害者の氏名と顔写真が報じられるのが常だ。どうしても近影が見つからず、30代なのに中学の卒業アルバム写真が使われることもある。SNSが普及した現在、氏名と顔写真の報道は必要ないという意見もある一方、事件や事故を忘れてほしくないと、たとえば「娘のいちばんかわいい姿を」と遺族が報道陣に写真を提供することもある。氏名と顔写真を報じる必要はあるのか。風俗関係者への取材をすることが多いライターの宮添優氏が、実名報道について考えた。

 * * *
 従業員の女性4名、客の男性1名、計5名の犠牲者を出した埼玉・大宮で発生したソープランド火災。

 火災が発覚し、鎮火もまだのタイミングで女性2名と男性1名の死亡が確認されると同時に、ツイッター上に散見されたのは「名前を出さないで」という、風俗店勤務の女性らによる訴えだった。

「店の従業員と客、と報じられていました。ソープランドの従業員とそのお客、ということは誰にでも理解できる。だから、決して名前を出してほしくないと願いました」

 こう話すのは、ツイッター上で「名前を出さないであげて」とつぶやいていた綾子さん(仮名)だ。綾子さん本人も現役の風俗店従業員であり、親や知人には内緒でかれこれ3年ほど働いているという。

「風俗で働く子は、特別な事情を抱えている場合が多い。半分以上の子が、親族や知人に黙って働いていますし、私だってそう。もし私が勤務中に死んだというニュース報道で、親に風俗で働いていたことがバレたとしたら……。誰も得することはなく、みんなが悲しいと思う」(綾子さん)

 しかし、綾子さんらの願いは叶わず、民法キー局や全国紙の一部が、被害者の年齢や実名、居住地などを公表した。この対応について、ネット掲示板上では「血も涙もないテレビ・新聞」とマスコミ叩きが盛大に繰り広げられた。さらに、実名を公表したメディアの全てが、その後匿名報道に切り替えたことも、大炎上に油を注ぐ形となった。

「一度名前を出しておきながら消す。消えると思っているのは大間違い。ネット上ではすでにマスコミ情報から、被害者のSNSなどが特定され、個人情報暴きが始まっていました。マスコミは被害者の人権など考えていないのではないでしょうか? 本当にひどすぎる」(綾子さん)

 一方、当のマスコミ側はどういった見解なのか。大手紙社会部担当記者に聞くと、この”実名報道”について、大手マスコミの中でも「報じる意味」「ニュースとしての意義」が論じられるようになったという。そもそも”実名報道”に意義はあるのか。

「亡くなった方、怪我をされた方、行方不明になった方の実名を出して報じるのは、例えばそのご家族や関係者の方にお知らせをする、という意味合いが強い。また、実名や顔写真付きで報じることによって、酷い事件、凄惨な事故をより強く印象付け、世の中に注意喚起を促すという意味もあります」

 ただし、今回の大宮・ソープランド火災や、神奈川・座間市のアパートで9名の遺体が見つかった事件では、被害者の属性が”特殊”であり、警察から被害者の情報が出ても、実名や顔写真付きで報じるか、大いに議論がなされたという。

関連記事

トピックス

東日本大震災発生時、ブルーインパルスは松島基地を離れていた(時事通信フォト)
《津波警報で避難は?》3.11で難を逃れた「ブルーインパルス」現在の居場所は…本日の飛行訓練はキャンセル
NEWSポストセブン
別府港が津波に見舞われる中、尾畠さんは待機中だ
「要請あれば、すぐ行く」別府湾で清掃活動を続ける“スーパーボランティア”尾畠春夫さん(85)に直撃 《日本列島に津波警報が発令》
NEWSポストセブン
宮城県気仙沼市では注意報が警報に変わり、津波予想も1メートルから3メートルに
「街中にサイレンが鳴り響き…」宮城・気仙沼市に旅行中の男性が語る“緊迫の朝” 「一時はネットもつながらず焦った」《日本全国で津波警報》
NEWSポストセブン
津波警報が発令され、ハワイでは大渋滞が発生(AFP=時事)
ハワイに“破壊的な津波のおそれ” スーパーからは水も食料品も消え…「クラクションが鳴り止まない。カオスです」旅行者が明かす現地の混乱ぶり《カムチャツカ半島地震の影響》
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月16日、撮影/横田紋子)
《モンゴルご訪問で魅了》皇后雅子さま、「民族衣装風のジャケット」や「”桜色”のセットアップ」など装いに見る“細やかなお気遣い”
夜の街での男女トラブルは社会問題でもある(写真はイメージ/Getty)
「整形費用返済のために…」現役アイドルがメンズエステ店で働くことになったきっかけ、“ストーカー化した”客から逃れるために契約した「格安スマホ」
NEWSポストセブン
牛田茉友氏はNHKの元アナウンサーだったこともあり、街頭演説を追っかける熱烈なファンもいた(写真撮影:小川裕夫)
参院選に見るタレント候補の選挙戦の変化 ラサール石井氏は亀有駅近くで街頭演説を行うも『こち亀』の話題を封印したワケ
NEWSポストセブン
大谷家の別荘が問題に直面している(写真/AFLO)
大谷翔平も購入したハワイ豪華リゾートビジネスが問題に直面 14区画中8区画が売れ残り、建設予定地はまるで荒野のような状態 トランプ大統領の影響も
女性セブン
技能実習生のダム・ズイ・カン容疑者と亡くなった椋本舞子さん(共同通信/景徳鎮陶瓷大学ホームページより)
《佐賀・強盗殺人》ベトナム人の男が「オカネ出せ。財布ミセロ」自宅に押し入りナイフで切りつけ…日本語講師・椋本舞子さんを襲った“強い殺意” 生前は「英語も中国語も堪能」「海外の友達がいっぱい」
NEWSポストセブン
大日向開拓地のキャベツ畑を訪問された上皇ご夫妻(2024年8月、長野県軽井沢町)
美智子さま、葛藤の戦後80年の夏 上皇さまの体調不安で軽井沢でのご静養は微妙な状況に 大戦の記憶を刻んだ土地への祈りの旅も叶わぬ可能性も
女性セブン
休場が続く横綱・豊昇龍
「3場所で金星8個配給…」それでも横綱・豊昇龍に相撲協会が引退勧告できない複雑な事情 やくみつる氏は「“大豊時代”は、ちょっとイメージしづらい」
週刊ポスト
NYの高層ビルで銃撃事件が発生した(右・時事通信フォト)
《5人死亡のNYビル乱射》小室圭さん勤務先からわずか0.6マイル…タムラ容疑者が大型ライフルを手にビルに侵入「日系駐在員も多く勤務するエリア」
NEWSポストセブン